心(意識)をひとつひとつの”要素のまとまり”として扱うゲシュタルト心理学とは?
ゲシュタルト心理学は『人間の心(意識)は、物事を細かい要素ごとではなく“あるひとつの要素の集合体“として見ている』とする説です。ドイツ出身の心理学者『マックス・ヴェルトハイマー』を中心とした複数の心理学者によって創設されました。ゲシュタルト(Gestalt)とはドイツ語で『形・形態・構成』などの意味を表し、この考え方は後に『認知心理学』へと繋がっていきます。
当時『ヴェルヘルム・ヴント』が提唱した、心をひとつひとつの要素がつなぎ合わされた『構成主義』と主張したものを否定する理論としても知られていました。
※左がヴントの『構成主義』。右が『ゲシュタルト心理学』
心を知るためには”全体“を見る必要があるとヴェルトハイマーは考えた
図で見てもあまり違いがわからないかと思います。例を出しながらわかりやすく解説していきましょう
脳はものを『全体のまとまり』として知覚する
ヴントの唱えた構成主義は、認知したものに対して一つひとつの要素を細かく分断して分析していくものでした。対してヴェルトハイマーのゲシュタルト心理学は、認知した全体のまとまりを分析する必要があると考えました。これはいったいどういうことでしょうか?
たとえば、下に縦棒が並んでいます。アナタにとってこれは『何本』でしょうか?
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答えは言うまでもなく『5本』です。では、次の場合はどうでしょう?
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同じ『5本』で間違いないと思いますが、その答えに至る前に(3本と2本)という認識をしたのではないでしょうか? では、次に紹介するいくつかの『線』はどう見えるでしょう?
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これらは一つひとつの要素のみを追求すればただの『線』です。しかし、アナタにはこれらの線のあつまりが別のものに見えている(=知覚している)ことでしょう。これはゲシュタルト心理学の『近接の要因・閉合の要因・良い連続の要因・類同の要因』の組み合わせによって『あるひとつの集合』として認知された結果です。あるいは、これらをさらにまとめて『ヨロH』という“単語“として認知した方もいるかもしれません。
ゲシュタルト要因のいち例
・近接の要因 ―― 近くの要素がまとめて認知される
・閉合の要因 ―― 囲われた領域はまとめて認知される
・良い連続の要因 ―― 連続性があるとまとめて認知される
・類同の要因 ―― 似た要素はまとめて認知される
・経験の要因 ―― 過去の経験から物事の全体を捉える
これがゲシュタルト心理学の意味。各要素ではなく、物事を“全体のまとまり“として認知した脳の処理ということです。ちなみに、人間の脳はわりと楽をしたがるので、受け取った刺激を上記のようなシンプルな形にまとめたがります(プレグナンツの法則)。たまにある見間違いの原因のひとつとしてこれがあるかもしれませんね。
すべての感覚にあるゲシュタルト心理学
ゲシュタルト心理学は音楽でも同じことが言えます。音楽は単音だとただの『音』でしかありません。しかし、それが時間と共に音程の上下があり、一定のリズムやハーモニーが刻まれることで人は『音楽』を知覚します。
ただの『音』の連なりでしかないにも関わらず、それを『音楽』として認知した瞬間、人の心は揺さぶられ多くの人の心をつき動かします。これらは各要素に着目しただけでは絶対に発見できないことですよね?
ゲシュタルト(全体)は各要素の総和以上のものを生み出します。だからこそ、意識は各要素に着目するのではなく、全体的な要素のまとまりを追求する必要があるのです。
※全体として認知できなくなれば、それはただ意味のない『線』となる
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ゲシュタルト心理学の例
世の中にはゲシュタルト心理学で説明がつく現象がたくさんあります。それらの例を紹介しつつ、さらにわかりやすく解説していきましょう。
ゲシュタルト要因の例:アニメ
アニメは『絵』です。しかし、その絵を連続させ以前の絵と比べ微妙な変化を加えると、人はその絵の連続を全体的に認知して『動き』を認識します。アニメや映画映像などは、1秒で数十枚という数でしかありませんが、人間はそれを見ると間の動きを勝手に処理し、あたかも動いているように処理します。これを『仮現運動』と言います。
連続した絵は、人間の脳に新たな世界を見せてくれる
ゲシュタルト要因の例:経験
たとえば、上の例でお見せした『ヨ口H』という“文字“。これらを認知することは容易いですが、さらに『ヨ口H』というひとつのまとまりとして認識した方はいらっしゃるでしょうか?
ゲシュタルト心理学に『経験の要因』という言葉があります。
上記の『ヨロH』はあまり見かけない言葉ですね。たとえば『EOH』なら同じアルファベット群として認知できようものですが、すくなくとも『ヨ口H』をひとつのまとまり(単語や意味のある文字列など)としてスラスラ読める方はいないと思います。こういう場合、人間は経験の要因として、それらの要素をひとつのまとまりとは認識しません。
逆に、経験の要因から微妙にノイズがあったとしてもひとつのまとまりに認知する場合もあります。たとえば『ÅBCDE』という文字。Aの上に“○“がくっついてますが、アナタはそのまま「えーびーしーでぃーいー」と心の中で読んだのではないでしょうか?
この”Å“という文字、正確には“オングストローム“という原子レベルで利用する長さの単位ですが、ふつうの方はこれを「あ、オングストロームだ」と認知することはないでしょう。ただ「ん? Aの上になんかついてるな……まあいいや」といった感じでしょうか? このように、ある程度ノイズの入った認知でも、自身自身の経験則からそのまままとめて認知できることもあります。
そういった経験の要因は、絵画を見たときや映画を鑑賞したときアナタならではの視点を与えてくれます。人生経験はすべてゲシュタルト認知に関わっており、たとえば『だまし絵』でどういった絵に見えているか? という問題でも個人のこれまでの人生経験が関わっていきます。トリックアート展などに赴いて、ぜひ自分の“経験“を試してみてはいかがでしょうか?
ゲシュタルト要因の例:図・地
だまし絵というわけではありませんが、人間は絵に対して『図』と『地』を無意識に処理しています。上記の絵は『ルビンの壺』という有名な絵で、人によって『向かい合っている顔』もしくは『壺』に見えるというゲシュタルト心理学のよい例です。
経験の要因によって多くの方が『白=地』と認識する、つまり上記絵の『左側は向かい合う顔、右側は壺の絵』に見えるのではないでしょうか? フルカラーの場合だと『進出色・後退色』の認知具合もあるでしょう。今回はわかりやすい例として『白・黒』2色版画像を用意しましたが、たとえば以下の要素が『図』として認識されやすくなります。
・小さい図 ―― 目立たない
・閉合の要因 ―― 閉じた空間は”枠“を認知しやすい
・中央 ―― 視線が誘導されやすい
・動いている ―― 上記と同じ理由
白紙にペンで様々な線を描いてみて、自分がどのように図と地を見分けているか実験してみるのも良いかもしれません。この『ルビンの壺』以外にも、ゲシュタルト認知を利用した絵はたくさんありますのでぜひ探してみてください。学生の方、もしかしたら美術の教科書に載ってるかもしれませんよ?
これらの知識は『齊藤勇』氏監修『田中正人』氏編著の『図解 心理学用語大全 人物と用語でたどる心の学問』を主に参考にしたものです。氏は著名な心理学者で、文学博士の単位を取得しています。立正大学名誉教授の肩書きのみならず、心理学に関する多数の著書を出版しています。入門者用に図解でわかりやすく描かれているので、心理学入門はじめの1冊目としてとても役立ちますね。
人間は物事を『枠組み』のなかで捉えます。余裕を失い物事の枠組みに囚われている自分に気づき、そこから脱却する勇気も時には必要かもしれませんね。ちなみに、心理学を利用した心理療法において『ゲシュタルト療法』というものがありますが、これはゲシュタルト心理学とはほぼ関係ないものです。
ゲシュタルト療法については こちら
“ToDo”チャレンジ
①身近な”ゲシュタルト心理学“を探してみよう
壁の模様が、アナタにはどう見えているでしょうか?
②音楽やアニメに触れてみよう
ゲシュタルト心理が生み出す感動がそこにあります
③トリックアート展に行ってみよう
アナタの経験を試してみては?
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