【解説】ゲシュタルト療法とは? 日本にも渡来した開発者の略歴と技法、テクニックについて

ゲシュタルト療法が”危険”と言われる理由は? エンプティ・チェアなどの解説も

 ゲシュタルト療法は『自分の中のさまざまな気持ちを受け入れる』ための療法です。ドイツ系ユダヤ人『フレデリック・パールズ』によって開発され、患者クライエントの心にある未解決の問題の自分でによって解決していこうとする試みです。

 心の病気を扱う精神医学や臨床心理の世界では様々な治療法が存在しますが、今回はこの『ゲシュタルト療法』について紹介していこうと思います。

心の問題は過去ではなく”今”にある

 さまざまな要因によってストレスを抱え、心の問題を引き起こしてしまう方は年々増加傾向にあります。ストレス解消のため手軽に外出できない時代が続く中、いかにして自分の心と向き合うかが今後も重要になってくると思います。数ある心理療法のなかでもひときわ異彩を放つゲシュタルト療法とはいったいどのような技法なのでしょうか?

「今、ここ」を重視するゲシュタルト療法

 ゲシュタルト療法とは、過去にその人が経験した『未完の行為』を解決しようという治療法です。未完の行為とは、たとえば幼少期に母親との関係性に葛藤があったとして、その葛藤の正体に気づき今現在の自分に生じている心の穴を埋めようという試みのことを指します。

 精神的ストレスを抱えることになった原因は過去の出来事にあるとしても、悩んでいるのは今現在のアナタです。問題は過去にあるのではなく『今を生きる心』自体なのです。過去の葛藤やトラウマは結局今を生きる心に存在するのですから、その問題は今ここで変えていくことができるという考え方です。これを『今の原則』と呼びます。

・過去のトラウマや『未完の行為』によって心の問題が起こる
・未完の行為に気づき、今ここから解決に向かう行動をとる
・あくまでも重視するのは『今、この瞬間』の心のみ

 過去、母親に疎まれた経験があり『母親に甘えたかった』という未完の行為に気づき、それを今に当てはめて誰かを頼りにする――つまり『もっと他人に甘えたり頼ったりしても良いんだ』という行動によって自分の心のを塞ぎます。過去に経験できなかった未完の行為である『甘える』という行為を、今は友人などにどんどん頼るという決意・行動でもって完結する。つまり穴を埋めるわけですね。過去にできなかった行為を今やることで、過去の問題のしがらみを受けているを克服しようという試みなのです。

 なかなか哲学的で複雑な療法ですが、これはゲシュタルト療法の創始者が深く関係しています。

心に過去や未来はない。いつだって『今、この瞬間』だけ

ゲシュタルト療法を創始した偉人

※画像wikipedia より

 『フレデリック・サイモン・パールズ』氏は、1983年7月に誕生したドイツ系ユダヤ人です。ベルリン大学で医学を学んだ後、当時のナチスによる迫害から逃れるためオランダへ逃亡し、その後アメリカへと渡りました。

 彼は1935年に南アフリカに在住中、ヨハネスブルグにて精神分析研究所を設立。一時期はフロイトの精神分析を活用していたものの、1942年に『集中療法Concentraton Therapy』を開発し、現在のゲシュタルト療法の基礎を築きました。1946年にアメリカへ渡り、1951年に『ゲシュタルト療法』を出版。その後日本にも訪れ、京都の大徳寺にて禅の修行も経験しています。ゲシュタルトと言うと『ゲシュタルト心理学』を思い出しますが、実はゲシュタルト療法はこれと深い関係はありません。彼自身の精神分析や哲学、そして東洋の思想も深く関係しています。彼の名言として『ゲシュタルトの祈り』は有名ですね。

~ゲシュタルトの祈り~
 わたしはわたしのために生きる。あなたはあなたのために生きる。
 わたしはあなたの期待に応えるために、この世に生きているわけじゃない。
 そして、あなたもわたしの期待に応えるために、この世に存在するわけじゃない。
 わたしはわたし。あなたはあなた。
 でも、偶然が私たちを出会わせるなら、それは素敵なことです。
 たとえ出会えなくても、それもまた同じように素晴らしいことです。

ゲシュタルト心理学については こちら

 彼は1970年3月、シカゴにて死去しましたが、それまで世界各地を巡り日本には東京京都へ訪れたそうです。彼の映像は当然ながら古いものばかりですが、彼がゲシュタルト療法について解説した映像がありましたので、ここでひとつ紹介します。

YouTubeチャンネル:Instituto Peruano De Psicoterapia Humanista、投稿動画より

エンプティチェアなどの技法紹介

 ゲシュタルト療法にて最も有名なのは『エンプティチェア』という手法です。ゲシュタルト療法が怖いとか危険なんて言われてしまうのは、もしかしたらエンプティチェアが傍から見ると異様に見える光景だからなのかもしれません。

 エンプティチェアでは、まずその名の通り誰も座っていない空のイスに誰かが座っていることを想像して、その相手に向かって話しかけるという手法です。カウンセラーがまず来訪者以下クライエント)に対し説明し、クライエントが悩みや問題に関連した対象をそこに想像して話しかけます。上記で挙げた『母親に甘えたかった』例を使うと、空のイスに母親を思い浮かべ、母親に向かい「もっと自分を見て欲しかった」とか「お母さんはいつも仕事ばかりで……」など、自分の心の丈を相手に向かってぶつけていきます。

YouTubeチャンネル:Australian Institute of Professional Counsellors 投稿動画より

 もちろん、この間も近くにカウンセラーがいますから、クライエントとしてはすっごく恥ずかしい気持ちになるんじゃないかなと個人的に思います。これを行うにはカウンセラーとの信頼関係ラポールも必要かもしれませんね。

 エンプティチェアに話しかけていくうちに、やがて自分の心に潜む何かに気づきます。そもそもエンプティチェアに座っているその人は『今、その瞬間』を生きる『クライエント自身が投影したその人』ですから、実際のその人がそこにいるわけではありません。ですから、クライエントが想像した他人がそこに現れますし、よく知る母親を想像したとしても、それはクライエントが投影した母親ですから、想像上の母親がどのような反応を示すかはすべてクライエント次第とも言えます。クライエントがそれに語りかけることによって自分自身の心に気づきやすいというのは、ある意味当然であり納得できる話です。

 これは普段の生活でも同じことが言えるでしょう。なんとなく関係が悪い相手をアタマのなかで想像すると、実際の相手よりも悪いヤツとして投影しがちになってしまいます。それによって相手の印象を勝手に悪化させつっけんどんな態度をとり、それを受けた相手がさらに――なんて、これはもう悪いループの始まりです。このようなことがないよう、普段から心に余裕をもっておきたいですね。

相手の気持ちになるドリームワーク

 エンプティ・チェアが『相手を想像し自分の気持ちを吐き出す』ならば、こちらは『相手になりきり気持ちを考える』というイメージになるでしょう。これもまたエンプティチェアと同じく独創的な療法です。フロイトの『夢判断』の発展のような感じでもあり、クライエントはまず夢のなかに登場したモノをカウンセラーに話します。そしてカウンセラーの指導のもと、クライエントは『夢に登場したモノになりきって、それの気持ちや想像できることを言葉にして表現してみよう』と試みます。

 対象物はなんでも良く、今回主に参考にしている 『齊藤勇』氏監修『図解 心理学用語大全: 人物と用語でたどる心の学問』 ではなんと『懐中時計』になりきった例が紹介されていました。図解で懐中電灯のコスプレをした男性について解説されているページには思わずヘンな笑いがこみ上げたのを覚えています。

 ちなみに著書では『夜になったらボク懐中時計は役に立つ 環境を変えれば本当の力を発揮できる!』という気づきを得て行動していましたね。

 無意識の世界が顕現する夢の世界において、そこに登場するモノは『統合されていない自己』ととることもできます。夢に登場する無意識からのメッセージを、モノになりきってセリフを考えることで、さらに新しい視点からの気付きを得る狙いがあります。新たな一面に気づくという点においては非常に有用なテクニックと言えるでしょう。

なぜ”危険”とされているのか?

 さて、さきほど『エンプティチェア』が危険だ、などと書きましたが、これは別に見た目がシュールだからとかいう理由だけではありません。

 エンプティチェアは手法こそ独創的ですが、やっていることは自分自身の心の投影ですから、これは『架空の劇・ロール』であっても、このようなこと自体がクライアントにとって心の負担となる場合もあります。故にカウンセラーは慎重なやり取りや場の設定が必要なのです。想像する相手がそもそも恐怖の対象でしかないのであれば、クライエントにとって非常に負担のかかる作業になりますよね。

 これはクライエントが自らの心にある種の折り合いをつけるための作業でもあります。心理的に投影した相手へのメッセージをカウンセラーがうまくキャッチし、的確に介入しつつ気づきへのアシストをする。これがうまくいかない場合は中断する選択肢が生まれるでしょう。カウンセラーはクライエントに対し『すべて吐き出させる』くらいの気持ちで臨んでいるはずです。

どの療法も同じことが言える

 とはいえ、自分の心と向き合う心理療法ならばそういった面はどうしても存在するので、エンプティ・チェアだけが危険なんてことは一概に言えません。クライエント本人が”気づき“を得た場合はものすごい効果を得ることができるでしょうし、このテクニックをうまく利用すれば『今、この瞬間』を楽しく生きることができるようになるかもしれません。そういった療法は数多く存在しますので、日常的なテクニックとして利用する場合は、アナタにとって適切な手法を探してみるようにしましょう。

“ToDo”チャレンジ

①自分自身に”気づき“を得よう
  たまに、ふと自分の胸に語りかけてみてください
②夢に登場した”モノ“になりきってみよう
  ソレはどんな場面で活躍できるモノですか?
ストレス解消の手段を探そう
  読書もなかなかに楽しい趣味ですよ

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