【イヌゲノム】アナタの愛犬がかかりやすい”遺伝子疾患”は?【遺伝子】

 わたしたちは遺伝子をもって生まれます。遺伝子はわたしたちをつくる地図で、身体は地図をもとに設計されているのです。人間の遺伝子全体をヒトゲノムと呼ぶように、犬の遺伝子全体は『イヌゲノム』と呼び、ある程度のまとまりになったXY字の姿を『染色体』と呼びます。生き物により数は様々ですね。

染色体数
 人間:46本 (23組)
  :78本 (39組)

 大きさや外見、気質までもデザインされていますが、その中には遺伝子の配列がおかしいため様々な病気にかかってしまう場合もあります。人間では『ダウン症・フェニルケトン尿症』などが有名ですね。そのほか後天的な遺伝子疾患として『がん』があります。

 犬は人間がムリな交配をくり返した結果、現在およそ700もの遺伝子疾患が発見されています。調査がすすめば今後も発見されていくでしょう。日本ではとくに人気犬種の需要を満たすため無秩序な繁殖をくり返している現状も問題視されており、ムリな交配のせいで生まれつき遺伝子疾患をかかえた子犬がいるのは残念なことですよね。

 マズルが極端に短い犬種は、そのつくりのため呼吸がしにくくなっている

 このような状況で「うちのワンちゃんの遺伝子はだいじょうぶかしら?」と思う方も多いと思います。今回は犬の遺伝子疾患について、代表的な病気やかかりやすい犬種などを紹介していこうと思います。

ジャパンケネルクラブ
 遺伝子疾患については こちら
埼玉県獣医師会
 遺伝子疾患については こちら
内部リンク
 遺伝子に関するより詳しい解説は こちら

人気犬種がかかりやすい遺伝子疾患

 人間のムリな交配により、犬にはそれぞれ気をつけるべき遺伝子疾患があります。ここでは上記『埼玉県獣医師会』に記載された情報などをもとに、犬種ごとにかかりやすい疾患をまとめていきます。なお、リストは『ジャパンケネルクラブ(JKC)』が公表している『2021年 犬種別犬籍登録頭数』でトップ10に入った犬種をもとに紹介しています。

プードル(トイ)
  アレルギー性皮膚炎
  僧帽弁閉鎖不全症
  流涙症
  ムコ多糖症 など
チワワ
  動脈管開存症
  気管虚脱
  水頭症 など
ダックスフンド(ミニチュア)
  様々な皮膚疾患
  椎間板ヘルニア
  停留精巣 など
ポメラニアン
  僧帽弁閉鎖不全症
  環軸関節不安定性
  グリコーゲン貯蔵症 など
フレンチ・ブルドッグ
  短頭種気道症候群
  第三眼瞼線脱出(チェリーアイ)
  椎間板ヘルニア など
ミニチュア・シュナウザー
  進行性網膜萎縮症
  尿石症
  先天性筋緊張症 など

  外耳炎
  若年性白内障
  GM1ガングリオシドーシス など
ヨークシャー・テリア
  動脈管開存症
  門脈体循環短絡
  乾性角結膜炎 など
マルチーズ
  僧帽弁閉鎖不全症
  眼瞼内反症
  グリコーゲン貯蔵症 など
シー・ズー
  動脈管会損傷
  膝蓋骨脱臼
  グリコーゲン貯蔵症 など

 アナタが想像している以上に多くの遺伝子疾患があったのではないでしょうか? ――すべての犬種に『など』の記述があるとおり、犬種ごとにまだまだ懸念される遺伝子疾患が多くあります。すべてリスト化すると長くなりすぎてしまうので1犬種ごとに3つだけ掲載する形にしました。

 犬の遺伝子疾患は、2022年11月現在約700種発見されています。大型犬の多くは『股関節形成不全症』がこわいですし、ダックスやコーギーなどはその器質的特徴(体型)から肥満や腰の病気は命にかかわります。ブルドッグなどマズル(鼻口部)が短い犬種は呼吸がしにくくなっています。

 遺伝子疾患のみならず、犬種ごとに気をつけるべき疾患は多いのです。遺伝子疾患のほか様々な犬種ごとの病気に関する情報は以下サイトで確認することができます。

三鷹獣医科グループ・新座獣医科グループ
 51犬種別、かかりやすい病気一覧は こちら

犬の遺伝子は”変化”しやすい

 遺伝子は以下の最小単位の部品(塩基)により成り立っています。

・アデニン(A)
・シトシン(C)
・グアニン(G)
・チミン(T)

 これらがの並び方で身体がつくられるのですが、同じ生き物でもちょっとだけ並び方が異なる場合があります。その違いが人間でいう『白人・黒人・黄色人種』などをつくりだすのですが、犬の場合この数が尋常でなく多いのです。

 1つだけ使われる塩基が異なる配列を『一塩基多型』と呼ぶのですが、イヌゲノムは約250万もの多型をもっています。

多型の例
 ・TTGCAACAGT(オリジナルと仮定)
 ・TTGCCACAGT
 ・TTCCAACAGT
 ・TTGCAAAAGT etc…

 たったこれだけの違いですが、これらの小さな違いが積み重なることで顔や性格、能力に違いが生まれます。犬の場合約250万個あるので見た目や大きさにバリエーションがあるのは納得ですよね。たとえば『ヘアレス・ドッグ』などは被毛がまったく無い、あるいは極端に少ない外見をしていますね。

 問題なのは、たった1つ塩基が異なるだけで病気のかかりやすさや薬の効きやすさも変化してくるということです。

J-STAGE
 犬の性格と遺伝子に関しては こちら
e-ヘルスネット
 一塩基多型の解説は こちら
内部リンク
 ヘアレス・ドッグについての解説は こちら

愛犬の遺伝子疾患が心配なら検査をする手段も

 愛犬の遺伝子に問題がないか心配だ。そんな時はわんちゃんの『遺伝子検査』を検討するのも良いでしょう。日本ではムリな繁殖を優先するあまり、先天的な遺伝子疾患を抱えた子犬が多いとされています。その中でペットの遺伝子疾患を検査サービスを展開する『株式会社Pontely』はペットは家族。安心して迎えられる世界にという理念を掲げだれでも申し込めるペット遺伝子検査サービスを実施しています。

 検体を送れば最短約2週間で判定されるためすぐ結果を知りたい方も安心してお申込みできます。結果を照明する『検査結果証』も発行されるのでさらに安心ですね。愛犬の遺伝子の健康が気になるアナタにぜひおすすめしたい検査です。

WEBで結果確認可能なわんちゃんの遺伝子検査【Pontely】

 保険適用外の疾患も見つけてくれるだけでなく、今後はわんちゃん個別の性格や毛並みの遺伝情報も判定するプランを用意しているとのことで、今後の発展が楽しみなサービスでもありますね!

犬の遺伝子に関する様々な発見

 遺伝子疾患がこわいですが、遺伝子が見せてくれる多様性が魅力に溢れていることも事実です。ここでは犬の遺伝子に関する研究をいくつかご紹介しましょう。

犬がヒトと交流できるようになった遺伝子

 2022年6月9日。麻生大学獣医学部動物応用科学科の『外池亜紀子』博士ほか10名ほどの研究グループは、ストレスホルモンとして知られる『コルチゾール』、『オキシトシン』の生産に関与する遺伝子の変異が、人間と交流、コミュニケーションをとるための社会的認知能力を発達させたことを明らかにしました。

 犬のなかでもオオカミに近い犬種(日本犬やスピッツなど)は、自分だけで解決しにくい問題に対し人間に依存した行動をあまり示さないことは知られていました。

例)箱の中にエサがあり、自力で手に入れるのがむずかしい
  犬 → 飼い主にアイ・コンタクトをとる
  狼
→ 犬のような行動をとることは非常に少ない

 オオカミなどは言うまでもなくヒトに頼ることはしません。そこで、研究グループは以下のような実験を行いました。

参加数:624匹の飼い犬
 ① オオカミに近い犬種 と
   オオカミに遠い犬種 グループに分ける
 ② それぞれ 指差し選択課題
   解決不可能課題 を行う

 指差し選択課題と解決不可能課題は以下のような手続きを踏みます。

指差し選択課題
 ① 中が見えないカップを2つ用意する
 ② どちらかにエサを入れ
   人間が指指して犬に教える
 ③ 犬にどちらかのカップを選ばせる
解決不可能課題
 ① エサを動かせない容器で覆い固定する
 ② 犬にエサを取る試みを行ってもらう
 ③ 犬の反応を観察する
   → ヒトを見るまでの時間、見る時間と回数、交互凝視する回数などを規則する

 結果、以下のデータが得られました。

① 指差し選択課題では
  両グループに大きな差異は見られなかった
② 解決不可能課題では
  オオカミに近い犬種が他グループと比較して以下のような特徴をもっていた
   ・ヒトを見るまでの時間が長い
   ・ヒトを見る回数が少ない
   ・ヒトを見ている時間が短い
   ・乞うご凝視の回数が少ない

 解決不可能課題に関しては、さらにオオカミに遠い犬種グループを7つに分けて詳細研修したほどです。624匹のサンプル数なのでかなりの信頼度があると思われますね。

オオカミはヒトを頼らない 犬はヒトに依存する

 以上の実験でなにがわかるのか? それは『犬はオオカミと比べ人間に依存している』という事実です。オオカミに近い犬種はヒトを見る時間や回数が少なかったですよね? しかしオオカミから遠い犬種はヒトを頻繁に見ているこれは――

<strong>犬</strong>

たすけて Uo・ェ・oU

 という気持ちになっているに違いありません。さあここからが本番です。この違いの原因を遺伝子から発見できないか? 研究グループはコミュニケーション能力に関わるホルモンとして『オキシトシン』と『コルチゾール』に目をつけました。それに関する受容体遺伝子をいくつか選択し解析した結果、ヒトを見る行動と遺伝子に深い関係が見られることが判明したのです。

解決不可能課題で相関関係が見られた遺伝子
 オキシトシン(OT)
 オキシトシン受容体(OTR)
 WBSCR17
  → ヒトの場合、この遺伝子の欠失でウィリアムズ症候群を発症する
 メラノコルチン2受容体(MC2R)

犬とオオカミの歴史

 指差し選択課題に関しては、大した結果が得られなかったかと言えばそうでもありません。オオカミに近い犬種もヒトの指差しに反応したということは、遠い向かい人間と出会ったオオカミが人間のジェスチャーを理解できたのではないか、という示唆にも繋がりますよね?

 オオカミがどうして犬になったのか? 犬が現在の姿になるまでどのような歴史を辿ったのか? ――研究者のさらなる活躍に期待で胸が膨らみますね。

麻生大学
 当該研究の概要は こちら
Nature
 当該研究の詳細は こちら(英語)

イヌゲノムも解明されていく

 2022年4月1日、有名科学雑誌の『サイエンス』にヒトゲノムの全配列が完全解読された論文が掲載されました。それと同じように、人はイヌゲノムに関しても解読作業を進めています。現在判明している遺伝情報配列などはいくつかのサイトで閲覧可能です。

 犬は人間の大切なパートナーです。日々わたしたちに寄り添ってくれるかわいい家族に、人間ができることはなんでしょう? 我が家の黒ラブを眺めながら、いつもそんなことを考えてるわたしです。

Science
 当該論文は こちら(英語)
National Library of Medicine(NLOM)
 犬の遺伝配列に関する情報は こちら(英語)

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