
アナタのDNAはたった”2%”しか働いてない? DNAには”ウイルス”がたくさんいる?
生物の身体はDNAによって作られている。これは誰もが知っている常識だと思います。しかし、その設計図のうちアナタを形作っている設計図はたったの2%だという事実を知る人は少ないでしょう。
なぜDNAにはそこまでゴミが多いのか? 今回はDNAの構造をわかりやすく解説しつつ、そういったナゾについても書いていきましょう。
DNAのわかりやすい用語解説 DNAの98%のナゾに迫る
本題に入る前に、まず遺伝子に関する基本的な解説から入っていきましょう。
DNA(デオキシリボ核酸)とは『生物の遺伝情報が集積された物質』です。多くの生物の細胞にはすべて『核』が含まれていますね。核の中にDNAがあり、DNAが様々なたんぱく質を作り出すことで生物の身体が出来上がっていきます。DNA自体はたんぱく質の材料であるアミノ酸の配列が書かれています。
YouTubeチャンネル、RIKENgsc:投稿動画より
生物のありとあらゆる部位を作るDNAですが、その材料はたったの4種類です。
・アデニン (Adenine)
・グアニン (Guanine)
・シトシン (Cytosine)
・チミン (Thymine)
DNAはヒネったはしごのような2重らせん構造をしており、ランダムではなく必ず以下の法則によってはしごが形成されています。
・アデニンとチミン
・グアニンとシトシン

これらのはしごは普段水素結合という水素原子1つだけでくっついた非常に弱い結合をいています。当然ながら剥がれやすいのですがそれが逆に好都合。DNAの近くに存在する『メッセンジャーRNA』が剥がれたDNAの情報を読み取り、情報を外へと持ち出して対応する情報を作り出していきます。
遺伝子、DNA、染色体、ゲノム
それぞれの言葉の意味をひと言で説明すると以下のようになります。
・遺伝子
ある形質を作成するための”ひと塊の情報“
この情報を元にアミノ酸が作られていく
構造遺伝子とも
・DNA
遺伝子が連なっている2重らせん構造
遺伝子の”本体“とも言える
ヒストン(たんぱく質)に絡み、これらが連なり染色体になる
・染色体
DNAが連なり折りたたまれてできた形
”X“や”Y“の形が特徴的だがこれは細胞分裂時の姿
人間の染色体は性染色体含め23対、46本存在する
・ゲノム
その生物の”遺伝情報すべて“をまとめた呼び方
ヒトゲノムは人間の46染色体すべてを指す
左から順に 遺伝子 → DNA → 染色体 のイメージ

意外とハッキリした違いがあるのですね。ただし、これらの言葉は狭義的、広義的など見方によって説明が異なるため、すべてにおいてこの解説が正しいとは限りません。
DNAの98%も存在する設計図”以外”の領域
上記で解説したDNAは生物の身体を作る設計図です。しかし、人間で例えてみると実際に設計図として機能する範囲はたったの2%。では、残る98%は果たしていらない“ゴミ”なのでしょうか? ――答えは半分が「イエス」で半分が「ノー」です。深く解説していきましょう。
DNAには2%の設計図が存在しますが、その他に『遺伝子をコピーするためのアシスト機能』をもつ領域が存在しており、それぞれ以下のような名前が付けられています。
・エンハンサー(アクティベーター)
DNAの転写を高めてくれる領域
途中で折れ曲がりプロモーターと接している
・プロモーター
メッセンジャーRNAに転写の開始位置を示す領域
ここに結合した転写因子がDNAのらせん構造を解く
・イントロン
設計図本体のうち”無関係“な部分
転写後に分離(スプライシング)され破棄される
・エクソン
設計図本体のうち”必要“な部分
この情報が核外に出てアミノ酸やタンパク質を作る
ヒトゲノム全体の2%しかない
・ターミネーター
メッセンジャーRNAに転写の終了位置を示す領域
ここに至ったメッセンジャーRNAはDNAから離れていく
・インスレーター
DNAの転写を弱める領域
不必要な転写を防ぐ役割を担う

画像はDNAの鎖1本を伸ばしそれぞれの領域を示した例になります。
エンハンサーとインスレーターは他の要素とは数千ほど離れていることが多いです。ただしエンハンサーは途中で折れ曲がったりなどして、プロモーターとタンパク質を介して接しています。
わたしたちを作るためのエクソン。この画像から見てわかるようにとっても小さな領域であることがわかりますね。なぜこのようなメンドクサイ設計をしているのか? その答えはDNAの『非コードDNA領域』にあります。
DNAに”ムダ”はない
上記の遺伝子だけを取り出すためのアシスト機能を担当する領域。実は人間の設計図と合わせても全体の40%程度にしかなりません。これから紹介する非コードDNA領域は、言うなればたんぱく質生成とは全く関係ないムダな領域です。しかし、これらのDNAは人類の長い歴史が積み重ねた結果生まれたものなのです。
非コードDNA領域は以下のような種類に分かれています。
・偽遺伝子 & 重複領域
かつて遺伝子として機能していた領域
転写は行うがタンパク質はつくらない
ダメージに対する”おとり“になる
・単純配列反復
同じコードが繰り返し並んでいる領域
ゲノム全体によく見られる
・レトロトランスポゾン
ゲノム上で”位置を変える“ことができる遺伝子
メッセンジャーRNAに転写させた後
自らDNAに帰ってくる自己増殖機能をもつ
酸化、紫外線、ウイルス感染などの要因で生物のDNAはダメージを受けます。偽遺伝子はその際おとり役となって代わりにダメージを受ける機能もあります。
単純反復配列は核分裂を起こした際に生まれるバグ、ウイルスが残した跡、テロメアのように予め計画された配列など多々あります。遺伝子はダメージを受けた際修復する機能をもっています。
このなかで最も厄介なのはレトロトランスポゾンです。ヒトゲノム全体のおよそ40%強を占めています。これは『転写された後自らDNAに戻っていく遺伝子』ですが、これにはウイルスとの関連性がとても強く示唆されおり、過去に感染したウイルスが残したものの可能性もあります。通常の遺伝子はレトロトランスポゾンが勝手に転写しないよう2重らせん構造がしっかりと結びついているため、現在のヒトの身体の中ではほとんどのレトロトランスポゾンは不活性化されています。
ヒトゲノムにムダはありませんが、強いていうならこのレトロトランスポゾンは、唯一ゴミと言えるのかもしれません。
YouTubeチャンネル、TEDx Talks:投稿動画より
これら非コードDNA領域は、確かに“ゴミ”と言えるかもしれませんが、人類の長い歴史が積み上げた結果を思えば決して“ムダ”な領域ではないと言えるでしょう。
これらについてさらに深く解説しているのが『小林武彦』氏著作『DNAの98%は謎 生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か』です。DNAの構造、非コードDNA領域研究の権威でもあり、文部科学省に認められた遺伝子研究のスペシャリストでもあります。非コードDNA領域の可能性、テロメアなどわたしたちが感じる疑問を詳しく、図解を交えて解説してくれる良書です。
文部科学省
小林武彦氏が担当した当該研究については こちら
人間の寿命を決定づける”テロメア”
上記で話題に上がったテロメアですが、これは同じパターンが数百~数千ほど繰り返される領域で、細胞分裂の際にどうしても1つ分だけコピーできず短くなってしまうのです。テロメアが半分ほどになった細胞は自ら増殖をしなくなる『細胞老化』という段階に入ります。これがなければ細胞がどんどん増殖されガン化してしまうので、かなり重要な役割と言えますね。
もうひとつトリビアですが、DNAは水に溶けやすくエタノールに溶けにくい性質があります。それを利用したおもしろい実験を紹介してみましょう。
YouTubeチャンネル、矢嶋正博:投稿動画より
動画ではなかなか手のこんだ手法が用いられていますが、もっと簡単な方法として『オレンジジュースと無水エタノール』を使った実験があります。無水エタノールは消毒用としても重宝しますね。
① よく冷やしたジュースとエタノールを用意する
② きれいに洗ったコップにジュースを注ぐ
③ ジュースと混ざらないようエタノールを同量ゆっくり注ぐ
④ 1時間強待つ
ジュースは新品のものを選択し、なるべく衝撃を与えないようにしましょう。エタノールはコップの壁面を伝うように注ぐと良いでしょう。
時間が経つと徐々にエタノールが徐々に現れ浮いていきます。下記に詳しいやり方が掲載されていますのでぜひ実践してみてください。
日本化学分析科学専門学校、なるほど ザ・化学実験室
当該実験の紹介は こちら
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