海馬研究の第一人者が提唱 “本当に覚える記憶術”とは?
テスト前に徹夜して勉強する。単語帳を片手に通学する。決意を固めて、1日中勉強のため部屋に閉じこもる――このような経験、みなさんにはありませんか? たしかに勉強前の自分よりは、多少単語帳の英単語を覚えたり、いつ活用するのかわからない歴史の出来事を覚えたり、ちょっとくらいは効果があるかもしれません。しかし、脳科学的に言えば、これは非常に効率の悪い勉強法だと言えるでしょう。人間は大容量のハードディスク(脳)をもっているのに、このような非効率な勉強法ではかなりもったいないですね。
脳科学研究で日本の最先端を歩む『池谷裕二』氏は多数の著作を出版しています。そのなかでも彼のデビュー作である『記憶力を強くする ~最新脳科学が語る記憶の仕組みと鍛え方~』は記憶のしくみがわかりやすく記されており、日常で実践できる様々なテクニックも載せられています。薬学博士、東京大学大学院薬学系研究科教授など素晴らしい経歴をお持ちの著者が記す『記憶』のパワー、記憶を司る『海馬』の可能性についてわかりやすく解説していきましょう。
脳の記憶処理
ここでは脳が記憶するしくみを説明していきます。そのために、まずは『脳』についておおまかに学んでいきましょう。
脳の”小ささ”とニューロン
脳は動物すべてが所持する器官です。人間も、猿も、犬も猫も鳥もすべて『脳』という機関が存在します。生物が考えて動くために必要な装置なのですが、その割合はあまりにも小さく、他の動物と比べて知性に優れるとされる人間でさえ、全体重のほんの2%ほどしかありません。この数字だけ見ると「少な!」って思いますよね? ――しかしその重量は重ければ単独で1.5Kgにもなるなかなかズッシリくる重さです。
さらに、脳は小さいわりに非常にエネルギーを消費します。たとえば脳のエネルギー源として有名な『グルコース(ブドウ糖)』などを、脳は全身の20~25%も必要とするのです。小さいわりに大食漢な理由は、その小さいスペースにみっちり詰まっている『ニューロン(脳神経細胞)』にあります。
ニューロンの結びつきが記憶をつくる
体重の2%ほどしかないと書きましたが、ニューロンの数は1000億個もあります。世界の人口が70億ほどですから、実にその15倍くらいですね。で、これらはそれぞれ『シナプス』という、骨で言えば関節のような回路でつながっていますが、シナプスの数はなんと1000兆個。ここまでくるともはや例えすら浮かびませんね。それらが複雑なネットワークを形成し『どのような経路で電気が通ったか』で脳は記憶を定着させます。つまり、この回路が多ければ多いほど脳の記憶容量は増えていくというわけですね。
ニューロンの可塑性
ごく最近まで、ニューロンは『新たに作られることはなく減っていくのみ』という説が当たり前でした。しかし、近年の研究ではニューロンの新生が認められ定説が覆る結果となっています。その鍵を握るのは運動と勉強。このふたつを織り交ぜればアナタは脳科学的に最強の記憶力を手に入れることができるでしょう。
記憶を司る海馬 短期記憶と長期記憶
パソコンで例えると、脳はいうなれば『ハードディスク』です。そこに記憶を刻み込むためには『メモリ』が必要で、実際にハードディスクに書き込むための『CPU』も必要です。この2つの機能もまた脳に備わっており、ハードディスクに記憶を送り込む役目を担っているのが『海馬』という器官です。
海馬は記憶をある条件のもとで分別し記憶するか記憶しないかを決断しています。海馬はまず覚えたものを『短期記憶』として保存しておきます。一時的にメモリに溜め込んでおくというイメージで良いでしょう。それから必要に応じてそれらの記憶を『長期記憶』として脳の各分野に送り込みます。この長期記憶こそがハードディスクになりますね。ここにインプットされた情報は確かにわたしたちの記憶となり、何らかのキッカケでシナプス回路が切断されない限りは永遠に保存されたままです。
しかし、残念ながら海馬が長期記憶にシフトチェンジする記憶はわたしたちの意思で操ることができません。なので、狙った記憶をインプットしたいときはある条件に目を向け、海馬に「これは長期記憶に送ろう!」と判断してもらう必要があります。では、その条件とはなんでしょうか?
条件1:生命活動に関わる
生物の目的は主に子孫を残すことですが、そのためには自身の命がなければ始まりません。そのために自らに危機が迫った場合、それは強烈にインプットされます。例えば事故などに遭遇したとき、その瞬間の恐怖とともにその時の天気や車のブレーキ音などもハッキリ覚えてしまうことがあげられます。場合によっては、そういった経験をした人は無意識にトラウマを抱えてしまい、同じ天気の時は事故でケガした場所がうずいてしまう症状があらわれることもあるでしょう。
これはストレスなどにも同じことが言えます。ストレスは生命維持に直結するのでその出来事を記憶しやすくなります。1日や2日程度ならまだガマンできるでしょうが、慢性的にストレスを抱えてしまうと他の物事への記憶力に影響してしまうので、ストレスを避けられるのなら避けたほうが良いでしょう。
条件2:感情を伴う
テレビを見ていたアナタは、ふと流れてきたクイズ番組の意外な知識と出会い「マジで!」と驚いた記憶はありませんか? ある知識に触れた時それに感情が伴うと、脳は知識と感情を結びつけて『手がかりを増やした状態』で記憶してくれます。テレビドラマ、小説、映画などの記憶をたどる際、どちらかと言えばクライマックスの情景のほうがよく思い出されますよね? これは強い感情を覚えるほど、脳が重要な情報だと感じるために起こることです。
『敵に塩を送る』ということわざ。戦国武将の上杉謙信が、武田信玄の国に塩が不足していることを知り、敵であっても弱みに付け込まず塩を送ったことから生まれたものです。これをわたしはたったの1回で覚えました。弱ってる相手のスキにつけこまなかった上杉謙信の義理堅さに心の底から感動を覚えたからです。このように、ことわざをただの文字列と意味で覚えるのではなく、その背景や自身が感情を伴うような要素がある、つまり余計に思える情報が多いほうが覚えられたりするのです。
条件3:何度も活用する
2週間に3度活用すると記憶に定着しやすくなるとは、わたしが個人的に尊敬する精神科医の『樺沢紫苑』氏の言葉です。脳は何度も使う記憶はより強く保持しようとし、さらにその記憶をうまく引き出せるようになります。日々仕事で利用する言葉、道具、なんらかの数字などは考えなくてもスッとでてくる方が多いのではないでしょうか?
これが如実に現れるのは『反復練習』です。スポーツの技術練習でも、漢字学習や計算問題なも、ひたすら同じことを繰り返し徐々に精度を高めていきますね。人間の脳は訓練によって回路が強化されます。同じことの繰り返しに感じていますが、脳の中ではたくさんの革命が起きているのです。
これはある種の『習慣づけ』にも同じようなことが言えます。脳の記憶の仕組みを理解したところで、次は具体的な記憶術について書いていきましょう。
脳科学的に良い勉強法
脳科学的に良いとされる勉強法はいくつかありますが、そもそも人間はみなさんが思っているほど記憶力に優れていないということに注意しておきましょう。人間の知性は素晴らしいですが、なんでもかんでも頭に詰め込もうとすると最初に覚えた(と思っていたもの)が記憶からスッと消えてしまいます。
これは海馬が短期記憶に溜め込んでいられる情報の数が少ないことに起因しますが、この『人間は1度にたくさんのことを覚えられない』はとても重要なので、今後記憶術を活かすためにしっかり認識しておくようにしましょう。
少ないメモリでたくさんの情報をハードディスクにインプットする。その効率的な方法をいくつかご紹介しましょう。
勉強を習慣付けする
これは上記の”条件3“に該当しますね。脳は筋肉といっしょで『使えば使う分だけ鍛えられる』器官です。ニューロンの可塑性もあり、毎日学習する習慣をつけておくと、脳が新たなニューロンを作るだけでなく、生まれたニューロンを活用しようと一生懸命にシナプスで連結してくれます。記憶力を伸ばしたいという方は、そもそも勉強するだけで記憶力を伸ばすための訓練をしているようなものなのです。可塑性を伸ばすために運動を併用すればさらに効果が期待できますよ。
危機感をもって勉強する
これは”条件1“に該当するテクニックです。さすがに事故のトラウマレベルほどのストレスを感じるのは悪影響ですが、そうならない程度の軽微なストレスは逆に脳へ良い影響を与えます。これは”条件2“にも当てはまるものでして、感動や情動というのは、ストレスを感じる器官と密接な関わりがあります。
より具体的に手法を説明すれば、たとえば『問題集のテストで〇〇点以上取れなかったら、後日映画に行く予定をキャンセルする』といった内容。明日の映画という楽しみをかけることで己を追い込むことができます。もちろん、この場合は「ま、べつにいっか」と映画館に足を運ぶことができますので、さらに効果を高めたい場合は友人や家族などと協力して逃れられないペナルティを用意すると良いでしょう。様々な心理学関連の研究に精通した『メンタリストDaiGo』氏が動画で紹介していた手法では『目標より点数が下回った場合、お小遣いが減る、あるいは支払う』といった内容でした。これは必死になりますね。
とはいえ、ストレスはため込めすぎないのが最良です。ほど良いストレスという操作が難しい上に、想定以上のストレスは脳の萎縮や記憶力の低下にも繋がります。これはある意味で上級者向けでしょう。
法則性の理解と語呂合わせ
人間の脳は理解できないものが苦手で不安を覚えます。たとえば太陽は上から下へ降り注ぎますが、暗闇のなか、顔に下からライトを照らすと、どのような爽やか系イケメン俳優でも不気味に映ってしまいます。これは光が下から照らすという普段の環境ではありえない出来事だからこそ、脳がその奇妙さを理解できず不安を覚えているのです。
逆に言えば、理解さえしてしまえば人間の脳はスムーズに記憶することができます。歴史上の出来事を記憶する場合も、当時の裏事情や理屈などを理解しておけば、脳は納得してくれて記憶に留めようとしてくれるはずです。
これを応用するのが語呂合わせ。人間は聴力から得た記憶のほうがより心に残るので、法則性が理解できないような数字の羅列を、意味のある言葉に置き換えれば難しい数字もキレイに覚えることができます。
例えば『2の平方根』なんていかがでしょう? 数字にすると『3.1414213562…』まあ、覚えられないですよね(笑)。でもこれを語呂合わせにするとアラ不思議。ササッと記憶することができるのです。
√2 = 1.1414213562 = ひとよひとよにひとみごろに(一夜一夜に人見頃に)
……おそらく学校でこう教わった方も多いのではないでしょうか?
寝る
実はこれ、記憶術として『最強』かもしれません。適切な睡眠を否定する学者や論文がひとつとして存在しませんし、わたしがこれまでに紹介した著書の多くでも睡眠時間の確保を強く推奨しています。さらに、最近Youtubeの『切り抜き動画』で勢いを伸ばしている『西村博之(通称:ひろゆき)』氏も一貫して睡眠の大切さを謳っていますね。彼は学者でも専門家でもありませんが、若い頃から日々プログラマーとして頭を酷使してきた方です。睡眠の大切さは肌で理解していらっしゃるのでしょうね。
YouTubeチャンネル、せまゆき:投稿動画より
睡眠はそれだけで分厚い本が出版できるほど重要なものだと思います。みなさんも普段の睡眠には気を使うようにしましょう。ほか毎日の勉強は、脳と心に良い影響をもたらしてくれます。みなさんもぜひ読書の世界に触れてみて、新たな知識を得る感動を味わってみてはいかがでしょうか?
本日の”ToDo”
①勉強の習慣をつけよう
新しい知識を毎日出会えるのは楽しいですよ!
②運動の習慣をつけよう
毎日気持ち良い汗をかきましょう
③睡眠時間を確保しよう
脳はしっかり休めなければ回復しません
アナタの心に知識というオアシスを
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