原料調達が容易 製造も簡単 “貧乏国の核爆弾”についてわかりやすく解説
さて、ちょっとゲームの話をしましょう。サバイバル・戦いをテーマにしたゲームです。アナタは広いマップに放り込まれ、自力で空き家から武器を調達し、それらを利用して相手を遠くから、あるいは近くから敵を倒していきます。車にの乗って突っ込んでくのも良いでしょう。フィールドは徐々に狭くなっていきます。会敵する機会も増えていき、より緊張を強いられるわけですね。残り人数がアナタひとりになるまで、いかに相手を殲滅するか――とてもアツい戦いが繰り広げられます。
このゲームの目的はなんでしょう? 言うまでもなく『ドン勝』することですね。戦場でたったひとり生き残る。それがこの“ゲーム“の目的です。
では『実際の戦争の目的』ってなんでしょう?
戦いですから、当然ながら『勝利』が目的のはずです。政治的な意味での勝利は、おそらく自らの主張を押し通すことかと思いますが、こと戦争という物理的な戦いに勝つためには『より多くの戦える人間を“減らす“』必要があるわけです。
少なくとも、勝利を達成するため必要な要素のひとつではあるでしょう。だからこそ、人はより強力な兵器を開発し、戦術を構築し、効率的に『ドン勝』する手段を作るわけです。
毒はとてもシンプルに、そして効率的に人の数を減らすことができます。
戦争と毒の関係・歴史
YouTubeチャンネル、ミストちゃんねる:投稿動画より
薬学博士であり、星薬科大学の薬品毒性学教室の教授である『鈴木勉』氏が監修した『大人のための図鑑 毒と薬』によれば、紀元前5世紀ごろに起きた『アテネ–スパルタ』間の戦争で、すでに兵器としての毒が登場しています。
アテネ軍が利用した『ギリシアの火』と呼ばれる兵器は、ベトナム戦争でアメリカ軍が利用したナパーム弾に相当する焼夷兵器です。石油や石灰を燃やして海の上でも消えない炎として、数々の戦争を勝利に導いてきました。その後の歴史でも、たびたび『硫黄』などの混合物を燃やして毒ガスを発生させる兵器が登場しています。
当時の毒は、まだ『火を起こす“何か“ or 火を起こしたら人間が倒れる“何か“』です。製造法も限られていましたし、大量に生産されることは多くありませんでした。しかし、人類の技術力が発達していくにつれ、多用な科学薬品が人工的に作れるようになっていきます。
そのなかには、残念ながら『毒』も存在したのです。
現代の”兵器毒”
兵器としての『毒』が大量に生まれた原因は、1914年7月28日に開戦した『第一次世界大戦』です。
当時のドイツ軍は、催涙ガスを使用したフランス軍に反発しクシャミ粉をばら撒きます。さらに、ドイツ軍は強力な『塩素ガス』をつくり、フランス軍の約5000人が命を落とします。これをキッカケにドイツ-フランス両国の間で『毒ガス製造競争』が勃発。多くの人間が毒によって命を落とす結果になりました。
その後『ジュネーブ議定書』をはじめ、多くの条約によって「毒ガスの使用はやめよう」という約束がされてきましたが、世界各地で発生している戦争を見てわかるように、現在でも多くの化学兵器が利用されている状況です。
代表的な『毒ガス使用禁止条約』一覧
・1928年:ジュネーブ議定書(Geneva Protocol)
窒素性ガス、毒性ガスまたはこれらに類するガス及び
最金額的手段の”戦争における使用の禁止“に関する議定書
※制限は使用のみに限られる
・1975年:生物兵器禁止条約(Biological and Toxin Weapons Convention)
細菌兵器、生物兵器及び毒素兵器の
“開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄“に関する条約
・1997年:化学兵器禁止条約(Chemical Weapons Convention)
化学兵器の”開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに破棄“に関する条約
進化しつづける”核”
毒ガスと並んで、人間に害を及ぼす細菌や微生物を兵器として利用する『生物兵器』も進化を続けます。これらを合わせ『生物化学兵器』と呼ぶのですが、これには大きな特徴があります。
・製造の手間がかからず、コストも低い
・殺傷能力は核兵器並にある
これらの“兵器としての長所”要因もあり、生物化学兵器は『貧者の核兵器』と呼ばれています。上記のような条約があっても、これらを悪用するテロなどの組織は多くあり、日本でも1994年に起きた『松本サリン事件』や、続く1995年の『地下鉄サリン事件』が記憶に新しいところですね
兵器としての”毒”
YouTubeチャンネル、CNA Insider(シンガポール公共放送):投稿動画より。地下鉄サリン事件について
生物化学兵器は、薬と同じように『目的に応じて柔軟に開発可能』です。目的に応じて、兵器としての毒はいくつかの種類に分けられますが、ここでは化学兵器(毒ガス)について紹介します。
・神経剤
筋肉が収縮したまま戻らなくなる。呼吸困難から死に至ることもある
無味無色無臭
効果的な治療法がなく、空気中にばらまくだけで拡散可能
サリン、タブンなどが相当
・糜爛(びらん)剤
皮膚を爛れさせる効果をもつ
体内に侵入し、細胞分裂を阻害したり、組織の構造を変えガン化の恐れもある
痛みを伴わず気づきにくい
イペリット(マスタードガス)、ルイサイト(きい剤)などが相当
・窒息剤
吸うことで肺の組織を破壊し、呼吸困難から命の危険を生じさせる
刺激臭、涙、鼻水、灼熱感を感じ、すぐ肺炎や肺水腫を引き起こす
塩素ガス、ホスゲンなどが相当
・血液剤
“青酸化合物“の総称
血中に侵入すると、細胞を低酸素状態にして壊死させる
呼吸をしても酸素を取り込めなくなる
青酸カリ、シアン化塩素などが相当
・催涙剤 嘔吐剤 など
殺傷力が少ないが、生理的、精神的なダメージを与えることを主とする
吐き気、くしゃみなど、深いにさせ戦意喪失させる
時間が経てば薬効成分は抜けると言われる
これらの化学兵器で死者が出る場合もある
催涙弾などが相当
催涙ガスなどは、現在でも暴動デモの鎮圧などで利用されるシーンがありますね。毒ガスは命を落とす“可能性”があるものです。ですから“命をとりとめる可能性”もあります。しかし、地下鉄サリン事件でわかるように、毒ガスは後遺症を引き起こし、その後の生活に大きな支障を来す場合が多いのです。
上記で紹介したように、現在世界では多くの『生物化学兵器使用禁止』に関する条約が締結されています。しかし現実には2013年のアサド政権の例などもあり、多くの国がそれらの兵器を秘密裏に所持しているとさえ言われています。また、2002年に起きた『モスクワ劇場占拠事件』では、無力化ガスとされた『KOLOKOL-1』がエアロゾル化したことで、人質129人のうち1人を除いたすべてが命を落としたと、当時のモスクワ公衆衛生局長が証言しています。
オックスフォード大学、分析毒学雑誌(Journal of Analytical Toxicology)
当該記事は こちら
“毒”対策、応急処置は?
YouTubeチャンネル、wei wei:投稿動画より
わたしたちが普段の生活で利用する洗剤、防虫剤、カビとり剤などは人間にとっても強力な毒です。『まぜるな危険』と注意書きがあるように、物によっては混ぜ合わせにより強力な塩素ガスを発生させる洗剤もたくさんあります。
そういった洗剤は、必ず換気や諸注意などを守り、安全に配慮した上で使用するようにしましょう。また、農薬頒布やゴミ回収など、作業によってはガスマスクが必要です。肺に毒を吸い込まないよう細心の注意を払いましょう。毒性の強い洗剤を使用した後は必ず手を洗い、上記動画のように『間違っても直接手に触れない』よう注意しましょう。
また、第二次世界大戦の最中、日本でも多くの毒ガス製造工場が作られました。環境省では戦時中の残留弾がまだ残っているということで、それらに対する対応をサイト内で公表しています。毒ガス弾、もしくはそれらしき物を発見した場合、それに近づかず『警察か消防』に連絡しましょう。
J-STAGE
毒の作用と治療に関しては こちら
環境省
毒ガス製造工場として利用された大久野島については こちら
旧日本軍の”毒ガス弾”を発見した際の対応は こちら
旧日本軍の”毒ガス弾”に対する日本の取り組みについては こちら
旧日本軍が製造していた毒ガス弾一覧は こちら
旧日本軍の毒ガス製造所、終戦時の場所一覧は こちら
経済産業省
化学兵器禁止関連政策に関しては こちら
e-gov法令検索
化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律は こちら
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