【脳科学】脳を進化させたい! ←これ、間違ってます【可塑性】

ワーキングメモリの鍛え方 わかった”つもり”にご注意ください

 世の中には、いろんな『脳トレ』がありますね。頭を使ってアレコレを考えるという意味では、たとえば『ゲーム』などもある種の脳トレと言えるかもしれません。ゲームに関しては肯定的、批判的な意見が共に多くあり、科学的にも肯定的・批判的な論文が存在するのが面白いところです。

 結論だけ書くと、科学的には『ゲームが脳に良いか、悪いかはなんとも言えない』というのが現状です。ゲームジャンル、操作方法、題材などあらゆる条件下において論文の結論はまちまちなので、今後統一的な研究が行われるかどうかにかかっていそうですね。

 今回は脳を正しく活性化させるテクニック、わかったつもりにならないためのテクニックを書いていきましょう。

脳に”変化”を与えるテクニック 理解した”つもり”に気をつける

 科学技術の進化により、人は頭蓋骨を割る必要なく、脳を観察する手段を得ることができました。その技術を集約した『磁気共鳴機能画像法fMRI』は脳検査のみならず、多くの実験で活用されています。

 しかし、これにはひとつ注意が必要です。

 fMRIは『血流増加を探知するシステム』です。あくまで血流の増加を観察するだけなので、脳が活性化して進化した(=何らかの効果を得た)かどうかは未知数です。なんらかの大きな効果が得られるわけでは無いですし、脳が驚くべき成長を遂げるわけでもありません。

 銃口を突きつけられた場合、誰だって脳が活性化しますよね? じゃあ「銃口を突きつけられると脳が活性化する! もっとやろう!」とはならないですよね? そもそもソレで脳のどこが鍛えられるというのでしょうか?

 上記の言葉は、わたしが個人的に尊敬している脳科学者で薬学博士の『池谷裕二』氏の著書にも記されているものです。著書『脳には妙なクセがある』では、こういった脳に関する現象をおもしろおかしい例で紹介しています。記憶を司る『海馬脳の可塑性』研究の第一人者でもあります。

脳には妙なクセがある (新潮文庫)
コミュニケーション最強の武器となる笑顔は、“楽しい”を表すのではなく、笑顔を作ると楽しくなるという逆因果。脳は身体行動に感情を後づけしているのだ。姿勢を正せば自信が持てるのもその一例。背筋を伸ばして書いた内容のほうが、背中を丸めて書いたものよりも確信度が高いという─。とても人間的な脳の本性の「クセ」を理解し、快適に生き...

 冒頭の通り、活性化とは『脳の血流が増えた』だけに過ぎません。それがどのような効果を生み出すかは未知数ですし、血流が上昇したら鍛えられるというのなら、常に血液をギュンギュン送っているマラソンランナーなんか頭が冴えて仕方ないレベルになるはずです。

 失礼かもしれませんが、すべてのマラソンランナーが秀才だというわけではありません。池谷裕二氏は「トレーニング中に脳がどう活性化するかではなく、トレーニングによって脳がどう変化(あるいは成長)するか」がカギになると著書内に記しています。

 ちなみに、運動には『脳由来神経栄養因子BDNF』を放出するニューロン新生の力がありますが、それはまた別の機会に取り上げることにしましょう。脳に変化を与えるトレーニングとは何か? ここで取り上げるべきテクニックとして『ワーキングメモリ』を鍛えることが挙げられます。

ワーキングメモリで脳を”変化”させる

 ワーキングメモリ(作業記憶)とは『情報を一時的に記憶し、操作する能力』のことです。以下のような作業はワーキングメモリが活用されています。

・頼まれた伝言を、別の場所にいる相手に伝える
・複雑な計算を、頭の中で整理しながら行う
・夕食のメニューを思い浮かべながら、材料を買う

 日常会話においても、話した内容を覚えながら会話を広げていくので、ワーキングメモリが活用されています。が、こういった会話は時間が経つとほぼ忘れてしまいますよね? ワーキングメモリはあくまで一時的に保存しておく記憶で、人は無意識にこのテクニックを活用しているのです。

 研究によれば、ワーキングメモリによって『ドーパミン受容体が変化する』という研究結果が得られています。つまり脳が物理的に変化したということです。実際に変化をもたらしたのですから、血流が上昇しただけの研究より有意義なものでしょう。問題はこの変化が『成績向上』や『老化予防』などの結果につながるか? という問題ですが、アルツハイマー病や統合失調症などでワーキングメモリが低下する事実からして、この訓練はもしかするとこれらの疾患を予防する貴重な手段と言えるかもしれません。

 ワーキングメモリは一時期日本でも流行りましたが、今後の研究が期待されるところです。以下参考論文を紹介しておきます。

・認知トレーニングに関する皮質ドーパミンD1受容体結合の変化
H, Klingberg, et al. Changes in Cortical Dopamine D1 Receptor Binding Associated with Cognitive Training

ワーキングメモリを鍛える

 ワーキングメモリは訓練によって成績が向上します。個人でできるカンタンな例ですと、たとえば『456847857』といった適当な数字を暗記し、数字を隠してから時間をおいて30秒後などに答えるというものが挙げられますね。動画サイトなどでトレーニング動画がアップされていますが、慣れてしまうとその数列ごと覚えてしまうので、たとえばアプリを利用して、電車の移動時間などスキマ時間を活用してのトレーニングがおすすめです。

 ほか、ワーキングメモリに関する様々な著書が販売されていますので、ぜひそれらを活用してみてはいかがでしょうか?

脳を活性化した”つもり”にならない 脳画像が人を騙す

 『百聞は一見にしかず』というという言葉もあるように、人は視覚的な情報を最も頼りにする生き物です。わたしも個人的にWeb小説投稿サイトで活動していますが、小説よりマンガやアニメ作品のほうがダイレクトに伝わりやすいことを実感しています。

 しかし、この『伝わりやすさ』が仇となる場合があるのです。

ニューロレアリズム

 ニューロレアリズムとは『脳の画像を資料として採用すると、信憑性が高いと受け止められる現象』です。驚くべきことに、以下の実験では資料として用意された脳画像が、説明に相関が無くても説得力向上に寄与するという結果が得られました。

当該論文は こちら(注:英語)

 ニュース報道は『わかりやすさ伝わりやすさ』を追求するため、目立つ情報が極度に単純化され、ニューロレアリズムが増幅されるようです。さらに昨今流行りの『YouTube』は多種多様な映像作品がアップされ、用語の解説などが派手な映像付きで紹介されています。演出ばかりに目が行って用語の内容が頭に入らなかった! なんてことが無いよう気をつけなければなりませんね。

 良いか悪いかの問題は別として、現代社会は溢れ出す情報からいかに取捨選択すべきか? が問われているのだろうと思います。

 単純化されたデータほど『わかったつもり』を生み出します。他人に伝わる情報発信ができるようになった時、はじめて「理解できた!」と言えるのかもしれませんね。

心理テクニックとしても使えるが……

 ちなみに、推奨できる手段ではありませんが、ニューロレアリズムは『プレゼンの相手を納得させるテクニック』としても応用可能です。脳画像を掲載するだけで説得力が上がるのですから、うまく利用すれば上司に企画を通すことだってできますし、営業で契約を勝ち取ることもできます。

 まあ、その場では相手が『理解させたつもり』になっていても、後々に問題があるでしょうが……利用するかしないかはアナタ次第です。

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