気象用語”日本海寒帯気団収束帯”とは? 日本が世界有数の雪国である理由
気象庁の予測によると2023年の冬は暖冬だそうです。降水(雪)量は全国的に平年並かやや少なめで、今年は冬と思えない陽気が多そうですね。
とはいえ、寒くない日ばかりというワケでもなく、クリスマス前に北海道や日本海側はドカ雪に襲われました。暖冬とはいえ雪が降らないとも限りません。スノータイヤの交換はちゃんとしましたか?
今年に入って、天気予報コーナーで『JPCZ』というワードをよく耳にするようになりましたね。テレビに限らずネットニュースでも登場してるこのワード、気になったことはありませんか?
日本語だとちょっと長くて『日本海寒帯気団収束帯』と呼びます。英語では[ Japan-sea Polar air mass Convergence Zone ]なのでJPCZになったということですね。これが日本海側に大雪をもたらす元凶なのですが、いったいどのような現象なのでしょうか?
ニュートン科学の学校シリーズ 天気の学校JPCZってなに? 日本海がもつ”豪雪が約束された海”の正体
日本海寒帯気団収束帯。専門家の間では雪の線状降水帯と呼ばれるそうです。昨今、天気予報コーナーで「日本海上でJPCZが発生しており大雪が予想されます」とアナウンスされますが、アナタはJPCZが何なのかご存知でしょうか?
じぇーぴー、なに? ――なんかよくわからないけど雪がスゴいんだな!
こんな感じなのではないでしょうか? ともだちから「JPCZって知ってる?」と聞かれた時のため、今のうちにしっかりチェックしておきましょう。
内部リンク
線状降水帯については こちら
JPCZとは?
気象庁によれば、JPCZは以下のように定義されています。
・日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)
冬に日本海で、寒気の吹き出しに伴って形成される、水平スケールが1000km程度の収束帯。この収束帯に伴う帯状の雲域を、「帯状雲」と呼ぶ。
強い冬型の気圧配置や上空の寒気が流れ込むときに、この収束帯付近で対流雲が組織的に発達し、本州日本海側の地域では局地的に大雪となることがある。
Japan sea Polar air mass Convergence Zone
ズバリ要約するとこのような感じです。
・日本海に発生する寒気の吹き溜まり
JPCZは気流を表す用語で大雪を表す用語ではないことに注意してください。JPCZという気流が結果として大雪を生み出すというイメージです。以下、日本海周辺のGoogleマップになります。
冬の日本は太平洋高気圧が弱体化し、代わりに北や西からのシベリア気団が勢いを増します。中国からの寒気は日本海をわたり日本にやってくるのですが、その際大陸にある高い山々によって気流が分断される箇所があります。
地図上の赤いアンテナ部分、中国と北朝鮮の堺にある2700メートル級の『長白山(日本では白頭山)』や『長白山脈』がそれです。北朝鮮側に山頂があり、ハングル文字では백두산と書くのですね。
この山々にぶつかった気流がいったん北側と南側に別れ、山を通り抜けた際に合流します。その際、合流する箇所が吹き溜まりのようになり、どんどん寒気が合流してくるため雪雲が発生しやすいラインが形成されてしまうのです。
JPCZは日本海に流れる寒帯気団が吹き溜まる収束帯だった、ということです。
気象庁
気団に関する気象用語一覧は こちら
日本海側は大雪が発生しやすい
YouTubeチャンネル、オフィス気象台:投稿動画より
日本海の水は九州から北上しオホーツク海へ流れます(対馬海流)。九州方面からくるので暖かい水がやってくる『暖流』になりますね。対して、上空は北方や大陸からの『寒気』(シベリア気団)がやってきて、季節風によって東に向かいます。
暖流の上を寒気が通ると、おおよそ2 ~ 3000メートルくらいの位置に雲が発生します。やや灰色で全体的にもわぁ~とした感じで、専門的に『乱層雲』と呼ばれる雪雲(雨雲)ですね。
JPCZは空気の吹き溜まりですから、つまり延々と寒気がそのスポットに流れ続けることになります。つまり、上記のような雲が延々と発生しやすくなっているということですね。
長白山脈で分断された気流が収束する。このような状況が延々とつづく
上記画像を踏まえてまとめてみましょう。
・日本海は暖流の海、寒気の空により
雪雲が発生しやすい
・寒気が中国大陸の山によって分断 → 再合流し
吹き溜まりを形成させる
・その位置に延々と寒気が収束して雪雲が形成
発達して豪雪を引き起こす
日本は『越後山脈・奥羽山脈』などの山脈が連なっており、日本海で発達した雪雲はそれによってせき止められます。結果として日本海側では大雪となり、太平洋側は水分がほとんどないからっ風が吹くようになります。
日本海がいっしょうけんめい溜め込んできた雪雲はぜんぶ日本海側で吐き出される。だからこそ新潟など、JPCZラインの延長線上にあるような場所は豪雪地帯として世界的に有名なのですね。
線状降水帯 -ゲリラ豪雨からJPCZまで豪雨豪雪の謎-JPCZ誕生の歴史とメカニズム
日本海側は世界でも有数の豪雪地帯です。昔から大雪が知られており、気象学者たちはそのナゾを研究してきました。
衛星から空模様を観察できるようになり地球の上空で”何“が起こってるのか?はわかるようになりましたが地球の上空で”なぜ“起こってるのか?はまだハッキリしていなかった時代、この大雪が延々と発生しやすい箇所があるスポット用語として明文化したのは1988年のこと。日本の気象学者『浅井冨雄』氏が発表した論文によるものです。
氏は論文のなかで、この帯状の雲を延々と発生させてしまう気流を日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)と名付け、それが全国的に定着していきました。
それから多くの考察がなされますが、JPCZを実際に観測してこその科学です。ということで、研究者はJPCZを直に観測すべく努力した結果2022年に日本の研究チームがJPCZの構造とメカニズムの実態を捉えることに成功しました。
日本気象学会
浅井冨雄氏の当該論文は こちら
日本の研究チームが発見したJPCZによる豪雪メカニズム
三重大学教授『立花義裕』氏主導のもと、多くの研究者が協力し真冬の日本海に乗り出し、1時間ごとの綿密な観測に成功しました。
観測されたJPCZによる大雪発生メカニズムは以下の通りです。
① JPCZにより周囲からの水蒸気が収束する
② 水蒸気が上空で雲となり、凝固加熱で浮力を得る
③ 浮力に伴い上昇気流が強化
上昇気流に引っ張られ海上風が増す
④ 海上風が増すことで暖かい海面からの
蒸発が促進し、水蒸気のJPCZでの収束が強化
⑤ ①~④を繰り返すことでJPCZは
一旦発生すると維持する機構を持つ
JPCZはそれだけでも充分強力な寒気ですが、ここで収束した空気はさらに上昇し雪雲を形成。上昇気流を無尽蔵に強化して延々と雪雲を形成してるというのです。
この構造、研究者は支流からの水を集めて大きくなっていく川にたとえて『大気の川』と命名しており、観測参加者の方がこれらの経緯を詳細にまとめた記事を書いています。厳しい日本海での船旅がリアルに伝わってとても読み応えがありますね。さらに、2023年1月19日にも同じ研究が行われており、これもおなじく詳細が記されています。
天気予報の大切さ
日本は四季があり、海流や気流が激しく変動するため気象予報がとても重要になりますよね。これまでの研究によって日本の天気予報は明日、明後日レベルならほぼ100%に近い確実な予報をしてくれます。それだけでなく、気象庁が発表しているように数ヶ月先までも予報できるようになりました。
天気を先まで予測できるということは対策する時間が増えるということです。大雪が1週間先に予測できたなら、その間にタイヤ交換などの対策ができますよね。大雪の規模も予測できれば自治体が除雪車を用意したり、避難所の整備をする時間もつくれます。その結果多くの命を救えることもあるでしょう。
研究者はわたしたちの暮らしを守るため、そして彼ら自身の好奇心や向上心のために多くのことを費やしてくれるのですね。
最新の研究により大雪はJPCZによるものが大きいのでは? ということまでわかってきています。もしかしたら遠くない未来、JPCZを観測するだけでなくJPCZの発生を妨害する技術なども開発されるかもしれませんね。
寒い季節となりました。どうぞ身体に気をつけて、体調を崩さないよう気をつけてください。今年の冬が、アナタにとって暖かい季節になりますように。
国土交通省 北陸地方整備局
降雪予想と対策に関しては こちら
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