重力波とは? 日本の重力波観測所”KAGRA”についても解説
1665年にニュートンが発見した『万有引力』は『すべての物体が互いに引き合う力』です。これは大きな発見でしたがなぜ離れた場所にある物体が引き合うのか? という疑問は解決されないままでした。それから250年後、ひとりの天才によってこの力に対する考え方が大きく変化しました。
アインシュタインが1915年に発表した『一般相対性理論』は『時空は歪むもので、その“歪み“こそが重力の正体だ』とする理論です。その1年後、アインシュタインは自らの理論をもとに『重力波』の存在を提案します。重力波とはいったいなんなのでしょう?
重力波ってなに?
重力波とは『物体が動くことで伝わる時空の歪み』です。一般相対性理論により光速はどのような条件でも“時速約30万キロ“とされています。理論的な証明はありませんが宇宙を観測するとこの原理のただしさがことごとく当てはまるので、現時点でも“原理”として扱われている事情があります。この『光速はどんな条件でも一定』という理屈の整合性をはかるため、アインシュタインは『時間と空間が歪む』というアイデアを生み出し、さらに時空の歪みこそが重力だという結論に至ったのです。
重力は現在宇宙研究の最先端である『量子力学』をもってしても解明できない“謎”のひとつです。重力が2つの物体の“間に働く力“であるのなら、それらの間を行き来する素粒子があるはずだとしてそれを『重力子(グラビトン)』と名付け探していますが2022年11月現在においてまだ見つかっていません。もしあるとすれば、重力子は光速で伝達される質量ゼロの素粒子だと予測されています。
重力波観測の難しさ
2015年、アメリカの重力波観測施設『LIGO』が13億光年先に存在した2つのブラックホールの衝突によって生まれた重力波を観測しました。2017年にはこれに大きく貢献した3人の科学者がノーベル物理学賞を受賞しています。
太陽の36倍、29倍の質量が合体。このとき太陽の62倍の質量をもつブラックホールが誕生しました。つまり太陽3個ぶんのエネルギーが重力波として1度に放出されたことになります。まったくイメージできないのですが「とにかくスゴイ」ということだけはわかります。
ここまで凄まじいエネルギーが放出されても地球で観測される重力波による歪みはたった500兆分の1ミリ。これは『陽子直径の1000分の1』という途方もない小ささです。数として突きつけられると重力波を観測する難しさが容易に想像できますね。
重力波観測装置のしくみ
YouTubeチャンネル、国立天文台:投稿動画より
重力波観測装置は上記動画(3分28秒以降)のような設計が基本です。一般的にこの観測技術は水素原子1個ぶんの歪みを観測するという例えが用いられるほど小さな歪みも観測することができます。2015年に重力波が初観測された時、太陽から地球の距離を水素原子1個分だけ歪めることができました。このときわたしたちは知らない間に水素原子1個ぶん歪んでいたのですね。いえ、太陽から地球の距離の間で水素原子1個ぶんですから、実際のわたしたちに生じた“歪み”はニュートリノの大きさレベルの変化かもしれません。
以下に重力波観測装置のしくみを簡潔にまとめます。
① レーザー発射装置から発射された装置は中央の反射鏡により2本へ分岐
② 長さ3キロの”腕“を通りそれぞれの反射鏡により反転
③ 再度中央の反射鏡により今度はセンサーへと電磁波が到達
④ センサーが電磁波の波形を測定することで変化を観測
通常であれば同じ距離を走ってきたレーザーなのでまったく同じ波形をしていますね。しかし重力波で時空が歪んだ場合、レーザーの波形は若干ズレることになります。そうするとセンサーに到達した光は通常と異なる波形を描くことになりますから、その変化した波形を検知することによって人は重力波を“観る”ことができます。
つまり、重力波は時空の歪みを通ってきた『光』によって間接的に観測されるのです。
日本で活躍する重力波望遠鏡”KAGRA”
日本においては重力波望遠鏡『KAGRA』が2020年より観測を開始しています。しかし上記のように重力波はものすごくミクロな揺れを観測する必要があり、地震大国である日本でこれを観測するにはとてもデリケートな装置をつくる必要があります。そのためKAGRAでは『レーザー鏡をマイナス250度に冷却』、『地面からの振動を100億分の1に低減』などありとあらゆる技術が集約されています。
現在KAGRAでは『LIGO』及び『Virgo』と協力し3次元からのアプローチをすることでさらなる観測精度の向上が期待されますね。
大型低温重力波望遠鏡(KAGRA)
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重力波で観測する意味
これまで人類は電磁波だけで宇宙を観測してきましたが、重力を観測することで恒星の中心部やブラックホール同士の合体など光を伴わない天文現象を観測することが可能になります。さらに、電磁波による観測では『宇宙マイクロ波背景放射』による観測が限界点ですが、もしかしたら重力波の観測で宇宙誕生の瞬間の姿を詳しく観測できるかもしれません。こう考えるとなかなかロマンのある話だと思いませんか?
現在はなんと1000キロもの間隔でレーザー光をやりとりする人工衛星型重力波観測装置の開発も進んでいます。重力波天文学の誕生は宇宙の真実を明かしてくれるカギになるかもしれませんね。
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