【入門用】日本人が提唱した”宇宙のインフレーション”のわかりやすい解説

宇宙は”無”からはじまった!? インフレーションを引き起こした真空エネルギーとは?

 宇宙のインフレーション理論とは『宇宙は”無”から誕生し、爆発的に膨張して誕生した』という理論です。

 1900年代、天文学者の間では「宇宙は永遠か否か?」が大きな議論となっていました。有名なアインシュタインも、一般相対性理論に定常宇宙となるべく宇宙項を取り入れ整合性を保っていました。

 戦後の1950年代、宇宙マイクロ波背景放射などの証拠が次々と見つかり、宇宙が膨張しているとする『ビッグバン理論』が浸透していきます。今では教科書に載るレベルで一般的な理論ですね。

 しかし、ビッグバンは『超高温高密度の塊が爆発した』という理論なので「なぜそのような塊があるのか?」という説明ができていません。真の宇宙の原初はどのように誕生したのか? ――それを説明してくれる理論こそが宇宙のインフレーションです。

 宇宙のインフレーション理論によれば宇宙はもともと“無”でした。しかし無であってもそこに何かがあったというのです。これはいったいどういうことなのでしょうか?

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 【最新論紹介!】ビッグバンのわかりやすい解説は こちら

宇宙のインフレーションをわかりやすく解説

 わたしたちは地球に住んでいます。地球には地面があり、空気があり、何らかの物質が密集していますね。

 では宇宙空間はどうでしょう? そこはなにもない真空になっています――が、宇宙を科学する量子力学の考えでは、そこはなにもない無の空間ではなく何らかの粒子が生まれては消えるを繰り返しているとされます。それを実現させるのが真空に存在するエネルギー、つまり真空エネルギーと呼ばれるものです。いったいどういうことなのでしょう?

カシミール効果 ~完全な”無”など存在しない~

 何もない空間である真空ですが、量子力学では、そういった無の空間でもエネルギーが発生しうると考えられており、実験により存在が確認されています。

 カシミール効果は『2枚の金属板が真空中で引き合う現象』です。1948年に存在が確認されていましたが、実際に観測されたのは1997年、アメリカの物理学者『スティーブン・ラモロー(Steven K. Lamoreaux)』氏によるもの。真空では無数の粒子が生まれては消えを繰り返していますが、それらはゼロ点エネルギーと呼ばれる力で振動しており、金属板の間では特定の振動でなければすぐ消滅してしまいます

 すると、金属板に挟まれた空間は、他の場所より相対的に誕生する粒子の数が少なくなり、外部のエネルギーに圧されることで金属板が引き合っていきます。この実験により真空エネルギーの存在は確定的となりました。

 真空エネルギーによるゆらぎのエネルギーは無限としてしまっても良いので、その空間には無限のエネルギーが無限個あると書いても量子力学的に許されます。量子力学の世界では、真空とは『エネルギーが最低(基底)の状態』と定義されているのです。

アメリカ物理学会(APS) PHYSICAL REVIEW JOURNALS
 当該実験は こちら(英語)

インフレーションは日本人が提唱した

 真空にもエネルギーがあり、真空エネルギーによって何かが生まれては消えを繰り返していました。最新科学では、インフレーションを起こしたインフラトン(Inflaton)、ゆらぎによって誕生した粒子を仮想粒子と呼んでいます。

 宇宙はそこから誕生したのです。では、その後どうして今のように広大な宇宙となっているのでしょう? 1981年、世界で初めて学会にインフレーション宇宙論を提唱した日本の物理学者『佐藤勝彦』氏の理論を紹介します。

 宇宙が誕生した時の大きさはとても小さく、素粒子サイズだったとさています。しかし、そこには膨大な真空エネルギーが存在しました。

 真空エネルギーは互いに押し合う斥力をもっていたため、素粒子サイズだった宇宙は急速に膨れ上がっていきます。この、宇宙誕生後の10マイナス36乗秒後から10マイナス34乗秒までの間に起こった爆発的膨張がインフレーションの正体です。

 よくわからない数字が出てきましたね。これをわかりやすく書き換えるとこうなります。

・10マイナス36秒 = 0.000000000000000000000000000000000001秒

 原初宇宙はもともと素粒子サイズの大きさだったため、インフレーションした後でやっと1cmほどの目に見える宇宙に膨張したとされています。といっても膨張した大きさは10の43乗倍。これは、たとえ元の大きさが1ナノメートル(0.000000001m)だったとしても、膨張した後はわたしたちが存在する宇宙の大きさより広大になってしまうようなレベルです。

オックスフォード大学 Royal Astronomical Society
 佐藤勝彦氏の当該論文は こちら(英語)

ビッグバンに繋がった真空の相転移

引用画像:NASA/WMAP image teamhttps://map.gsfc.nasa.gov/resources/imagetopics.html”

 インフレーションはとんでもない膨張を引き起こしましましたが、膨張したため誕生した仮想粒子たちは一気に冷えていきます。すると、今度は真空エネルギーが熱エネルギーに変化する『真空の相転移』が起こり宇宙空間に膨大な熱が発生したのです

 は冷えると、つまりエネルギーを失うとになりますよね。この相転移の際、熱が発生するのは学校でも習ったと思います。それが真空エネルギーにも発生するのです。

 真空エネルギーが相転移を起こした影響で大量の熱エネルギーが発生。それは宇宙を超高密度の熱の塊へと変貌させました。これが有名なビッグバン理論のはじまりに繋がっていきます。

 これらの理論は1970年代から議論されてきましたが、1981年に佐藤勝彦氏が、その他多くの学者たちがインフレーション宇宙論を提唱し、徐々にそれが定説となっていきました。今では初期のインフレーション理論にあった課題が解決されたり、宇宙が複数あるとする多次元宇宙論を説明する手段としても使える永遠のインフレーション理論など多数のバリエーションがあります。また「インフレーションやビッグバンなどなかった」と主張する研究者たちも存在します。

 現状はこれらの理論が正しいのか、実際の観測で検証していく段階にあります。2000年代にはNASAが打ち上げた『COBEWMAP』両衛星によって多くのデータが得られ、2024年現在では教科書に載るレベルでほぼ確定的な理論となりましたね。

東京大学
 佐藤勝彦氏が解説するインフレーション理論については こちら

今後の課題

 宇宙のインフレーションとビッグバン。このふたつが現代宇宙論における宇宙の起源になります。インフラトンの構造や正体、宇宙誕生以前などまだまだ未解決問題は多く残っていますが、今後の研究でそれらも明らかになっていくでしょう。

 インフレーション宇宙論をより深く楽しく専門家から直接聞けるとうれしいですよね。インフレーション理論によって予想される未来や多次元宇宙論の可能性、新たなナゾを知りたいなら、宇宙のインフレーション理論を提唱した佐藤勝彦氏がわかりやすく解説してくれた著書がおすすめです。

 宇宙のインフレーションってなんだろう? どうやって生まれて、宇宙はどうやって終わるのだろう? おとなも子どもも楽しめる宇宙のはなし、魅力的ですね。

インフレーション宇宙論 ~はじめて理論を提唱した佐藤勝彦氏の名著~

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