
日本人が観測したアマテラス粒子 超高エネルギー宇宙線をわかりやすく解説
2021年5月27日。アメリカ、ユタ州にあるテレスコープアレイで『244エクサ電子ボルト』のエネルギーをもつ粒子『アマテラス粒子』が観測されました。この粒子、実はたった1グラムで地球を破壊するエネルギーをもっているのですが、具体的な大きさをちょっと確認してみましょう。
1電子ボルトの定義は『単位電荷を持つある荷電粒子が1ボルトの電位差を抵抗なしに加速したときに得られる運動エネルギー』です。ちょっとむずかしいですね。かんたんに言い換えるとつまりこういうことになります。
・1電子ボルト
= 電子1個が1ボルトで動いた時の運動エネルギー
なんかスゴそうなエネルギーに見えますが、実際は素粒子(電子)がもてる最弱のエネルギーなので大したことはありません。ただし今回観測されたエネルギーは文字通りケタが違いました。
エクサは『単位を表す記号』ですね。長さなどでよく使われるミリやキロ、パソコンやスマホでよく聞かれるメガ、ギガなどと同じ仲間です。具体的な単位は以下の通りです。
・キロ
千 = 1,000
・メガ
百万 = 1,000,000
・ギガ
十億 = 1,000,000,000
・テラ
兆 = 1,000,000,000,000
・ペタ
千兆 = 1,000,000,000,000,000
・エクサ
百京 = 1,000,000,000,000,000,000
・244エクサ
2.44垓 = 244,000,000,000,000,000,000
1エクサで0が18個つきます。244エクサということですから『2垓4400京電子ボルト』となり、時速95マイル(約152キロ)で飛ぶゴルフボールのエネルギーがたった1個の粒子に込められていたことになります。
この粒子が1グラム分あれば地球を破壊できます。それだけでも驚きですが、実はアマテラス以前に、天文学者が「オーマイゴッド!」と叫んでしまうような超高エネルギー宇宙線が観測されたこともあります。
宇宙には巨大なエネルギーを秘めた粒子があちこちに飛んでいます。今回はそんな『超高エネルギー宇宙線』についてわかりやすく解説したいと思います。
超高エネルギー宇宙線のわかりやすい解説
YouTubeチャンネル、宙の星チャンネル:投稿動画より
宇宙には多くのエネルギーをもつ粒子が飛び交っています。それらは宇宙線と呼ばれ、陽子、電子、その他の原子核がほぼ光速に近い速さで地球上にも降り注いでいます。
宇宙線は放射線の一種ですが、多くの物質をすり抜けるため人体への影響はありません。また、これらの物質は大きなエネルギーをもっていますが、地球の大気中に含まれる物質と衝突などを起こしたり、そもそもの大きさが量子レベルのため宇宙線によって地球が崩壊することはないでしょう。
が、宇宙には常識破りな高エネルギーをもつ宇宙線が存在し、それらを総称して『超高エネルギー宇宙線』と呼んでいます。
・超高エネルギー宇宙線
10の18乗電子ボルト(1エクサ電子ボルト)以上の
エネルギーをもつ宇宙線
電子ボルトは『電子1個が1ボルトで動いた時のエネルギー』でしたね。そう考えると電子ボルトという単位はとても弱いエネルギーなのですが、さすがにエクサ(10億 × 10億)単位となればとんでもないパワーですよね。
観測された”最強”の宇宙線
1962年、アメリカのニューメキシコ州で100エクサ(1垓)電子ボルトの宇宙線が観測されました。これが人類が初めて観測した超高エネルギー宇宙線であり、その後史上最強の宇宙線『オーマイゴッド粒子』も観測されます。
オーマイゴッド粒子のエネルギーはまさかの320エクサ電子ボルト。たったひとつの粒子にそれだけのエネルギーが込められていたと考えると驚きですね。その後も次々と観測が進み、日本でも大阪公立大学大学院の准教授『藤井俊博』氏が『アマテラス粒子』を観測するなど多くの成果が挙がるようになりました。
この発見は大きな注目を集め、最近の2023年11月24日、有名な科学雑誌Scienceに掲載され話題になっています。アマテラス粒子は宇宙に存在する何もない空間ボイドから放たれたとされています。
ボイドは虚無の空間です。本来エネルギーなどあるはずのない空間からなぜあのような超高エネルギー宇宙線が飛来したのか? アマテラス粒子は大発見であると共に、宇宙に関する大きなナゾを残す観測となりました。
researchmap
藤井俊博氏のプロフィールは こちら
大阪公立大学
アマテラス粒子検出に関する記事は こちら
Scence
アマテラス粒子検出に関する記事は こちら(英語)
The Guardian
アマテラス粒子のナゾに関しては こちら(英語)
どうやって観測しているの?

超高エネルギー宇宙線の観測は『空気シャワーアレイ』と『大気蛍光法』の観測装置によって行われます。
宇宙線は地上に届くまでに地球上の大気と衝突し、自らのエネルギーでさらに多くの粒子を発生させます(空気シャワー)。これにより地上に届くまでにエネルギーが減少してしまいますが、地表に届いた粒子の数とエネルギーを観測し計算することでエネルギーを算出します。これが空気シャワーアレイです。
一方、大気蛍光法は空気シャワーのエネルギーで発生した紫外線を望遠鏡で集光、撮影。それらを分析してエネルギー量を算出します。前述のアマテラス粒子はこれらの装置によって観測されました。
テレスコープアレイ実験
2007年稼働。アメリカ、ユタ州にある超高エネルギー宇宙線観測装置群で、日本、米国、韓国、ロシア、ベルギーが共同で建設しました。
標高1400メートル、680平方キロメートルの敷地内に、500を超える検出器、3つの望遠鏡ステーションにそれぞれ12~14台の望遠鏡を装備するなどとんでもない設備を揃えています。この強力な布陣のもと、2021年5月27日、宇宙物理学者の『藤井俊博』氏が見事にアマテラス粒子を発見するに至りました。
ピエール・オージェ実験
全体の完成は2008年ですが、2004年から一部稼働開始しました。アルゼンチン、アンデス山脈近くのメンドーサ州にある国際宇宙線天文台で、数多くの国が協力し建築されました。テレスコープアレイに劣らず数多くのデータを取得し続けています。
こちらの天文台は大気蛍光法と、スーパーカミオカンデのように貯水タンクの水の反応を観測する手法を組み合わせて超高エネルギー宇宙線を追跡します。貯水タンクは総数1660台あり、宇宙から降り注ぐ空気シャワーを確実にキャッチしてくれるでしょう。
ピエールオージェ天文台
公式サイトは こちら(英語)
観測技術が進化し、昨今宇宙観測を続けるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が120億光年以上先に10個ものブラックホールを発見するなど続々と新たな発見が発表されています。これは宇宙誕生からたった10億年でブラックホールが複数誕生したことを示しており、まだまだ宇宙には人類が解明できないナゾが多く存在することを教えてくれます。
これからもジェイムズ・ウェッブは多くのナゾを明らかにし、それと同時に新たなナゾを人間に突きつけてくれることでしょう。人類は宇宙すべてのナゾを解き明かすことができるのでしょうか? ――今後の研究に期待ですね。
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