急性冠症候群で危篤になったので心臓について調べてみた

とつぜん命を落とす可能性もある”虚血性心疾患”を専門家の資料と共に解説

 日本では昔から脳血管疾患心疾患(心臓病)の患者が多く、これらと悪性新生物(がん)を併せて三大疾病と呼ばれており、令和4(2022)年には心疾患により23万人もの命が失われています

 他人事だと思いますか? ――わたしは正直そうでした。しかし、実際身内に心疾患を患った人がいてこの病気の恐ろしさを実感したので、今回はその実体験をもとに、専門家であるお医者さんから頂いた資料を参照して注意喚起的な記事にしていこうと思います

厚生労働省
 令和4(2022)年 人口動態統計月報年計(概算)の概況は こちら

心臓病は他人事じゃない! 専門階が教える急性冠症候群とは?

 ひとことで心臓病といってもその種類は様々です。

心内膜炎
  心臓の内側にある膜に炎症が起きる
  細菌感染等が主な原因(感染性心内膜炎)
心臓弁膜症
  心臓の弁が機能障害を起こす
  複数の弁が同時に機能しなくなる場合もある(連合弁膜症)
虚血性心疾患
  心臓へ栄養を送る血管が狭くなったり、塞がったりする
  大きく分けて狭心症心筋梗塞がある

 わたしの身内が患ったのは虚血性心疾患で、その中でも『急性冠症候群』と診断されました。

 何らかの原因で、目的とした臓器や組織に充分な血液が流入しない状況を虚血と呼びます。血液を全身に送り出す心臓ですが、心臓にも自身に栄養を取り込むための太い血管(冠動脈)があります。虚血性心疾患は、それらの血管が何らかの原因で狭くなったり、塞がったりして充分な血流が確保できなくなる疾患を指すのです

狭心症
  冠動脈が何らかの原因により狭くなる(狭窄)疾患
  一時的な痛みや圧迫感を感じ、放置すると心筋梗塞に発展する場合がある
心筋梗塞
  冠動脈が何らかの原因により完全に閉じる(閉塞)疾患
  心臓の筋肉が壊死するので命の危険を伴う

 心臓には太い冠動脈がみっつありますが、わたしの身内の場合それらすべてが機能不全に陥ったというとても危険な状態でした。このままでは虚血により数日から数週間のうちに事態が急変する可能性があり、ある瞬間突然命を落とす可能性がある重篤な病態ということで『急性冠症候群』の診断を受けました。

 次の瞬間には発作を起こしてしまうかもしれない。不安になりつつも、まだ心筋梗塞に至らなかったということが不幸中の幸いなのでしょう。さらに、これらを病院にいた時に偶然見つけたことが身内の命を救ったのかもしれません。いずれにしても急を要する事態であり、いそいて治療しなければならない状態でした

国立循環器病研究センター
 急性冠症候群に関しては こちら

どのような治療法がある?

YouTubeチャンネル、鹿児島大学病院 心臓血管外科:投稿動画より

 虚血性心疾患の治療法は主に以下の方法があります

内服加療
  冠動脈を広げたり、虚血状態をコントロールする薬を処方する
血管内治療
  カテーテルを挿入して冠動脈を広げるなどの処置
外科的加療
  他の血管を移植する手術を行う

 今回お医者さんから勧められたのは外科的加療でした。冠動脈を広げる薬を飲んでも、狭窄があるため血液の流れを良くするには限界があります。そのため、手術によって冠動脈に血液を流れやすくすることが現状での最適最善である場合があるとのことでした。詰まりそうな血管を使い続けるより別の良い状態の血管を移植する――最終的に『冠状動脈バイパス術(CABG)』という手術を選択しました。

可児とうのう病院
 虚血性心疾患、血管内治療の例は こちら

冠状動脈バイパス術とは?

 冠状動脈バイパス術は『冠動脈の狭窄した部分の先に新しい血管(バイパス)をつなぐ手術』です。狭窄した血管を経由する必要がなくなるので血流が良くなり、今後狭心症発作や心筋梗塞、さらに心不全まで起こらなくすることが目的になる手術ですね。

 2024年、進歩した医療においても冠動脈の代わりになるような人工血管はまだ良いものがありません。あればただ移植すれば良いだけですが、冠状動脈バイパス術の場合自分の身体の中にある血管を冠動脈の先につなぐ事になり、これに使われる血管をバイパスグラフトと呼びます。

 不要な血管など1本もありませんが、使っても大丈夫な血管があることは研究によりわかっているので、バイパスグラフトには以下のような血管が使用されます。

左右内胸動脈
  それぞれ肋骨の内側を垂直に降りる血管
右胃大綱動脈
  胃の手前を垂直に降りる血管
橈骨(とうこつ)動脈
  ヒジから手にかけて走る血管
大伏在(だいふくざい)静脈
  足の内側、くるぶしから足の付け根まである血管

 患者の状態にあわせ、これらをバイパスグラフトとして利用していく形になります。

順天堂大学医学部附属順天堂医院 心臓血管外科
 冠動脈バイパス術(CABG)の詳細は こちら

実際の手術行程

YouTubeチャンネル、Nucleus Health Videos – 日本語:投稿動画より

 心臓へアクセスするために、まず胸骨をまっすぐ切開します。心臓のまわりにある膜を切ることで心臓と大動脈が見え、ここからバイパス手術がはじまります。

 バイパス手術は血管を縫い合わせる手術なので術中心臓を止めておく必要があるのですが、現在では心臓を止めずに行う手術も考案されています。今回は人工心肺装置を用いた手術を行うのですが、停止した心臓はこのままでは壊死してしまいます。そこで心臓に心筋保護液という特殊な液をかけると3~4時間ほど心臓を保護しつつ停止させることができます。ふしぎですね。

 心臓が停止している間に、上記で紹介したバイパスグラフトとなる血管を冠動脈の先につなぎ合わせていきます。今回は3本ともバイパスする必要があったので6時間超という大手術になりました。

 停止した心臓はどうやって動き出すのか? ――ふしぎなことですが、心臓に血液を送り始めると、心臓は勝手に鼓動を開始するそうです。実際に見たワケじゃないですがお医者さんがそう言ってるのだからそうなのでしょう。もし動き出さなくても薬剤や電気ショックなどの手段があるので安心ですね。

 あとは人工心肺装置を取り外し、止血や胸骨の固定などをして皮膚を縫合すれば手術が終了します。

国立循環器病研究センター
 冠動脈バイパス術とカテーテル治療に関しては こちら
日本心臓血管外科学会
 心筋保護に関しては こちら

冠状動脈バイパス術のリスク

 どのような治療法も100%安全はありません。わたしたちが普段処方される薬でも用法用量を間違えばとなり得るし、成功した手術でも結果として悲しい結末になることだってあります。もちろん医療ミスは許されることではありませんが、何事にもリスクがあるのですね。

 人口心配装置を用いる場合、全身の血流が影響を受けるため、たとえば脳動脈硬化の強い患者の場合脳の循環が悪くなって脳梗塞ができてしまうリスクがあります。腎臓の血流が不十分になれば透析が必要になったりすることもあり、上記で紹介した心筋保護液が心臓全体に行きわたっていなければ、その部分は心筋梗塞を起こすことになるでしょう。「その危険性は0.5%以下だ」と説明されましたが、これを大きいととるか小さいととるかは人によりますよね

 手術に伴う合併症もリスクとしてあります。その一例をあげてみましょう。

心臓の合併症
  心不全、ペースメーカーなど
血栓塞栓(そくせん)
  脳梗塞など
出血貧血など
各種感染症
ショック症状

 この手術の危険性――入院中に命を落とす可能性は待機的手術(事前に予定された手術を行う)の場合1~2%程度とされます。日本心臓血管外科手術データベースによる危険率は5%とされ、合併症込みだと15%とされています(データ非公開)

無事手術を終えてひと安心しました

 冠動脈バイパス術は順調に進めば6時間程度で終えられ、手術後は集中治療室(ICU)で様子を見られた後一般病棟に移り、順調に進めば2~3週間程度で退院できます。その後1ヶ月ほどあれば日常生活に復帰できます。

 わたしの身内の場合、上記の例のとおりに回復していき、リハビリをがんばったこともありすぐ日常生活を取り戻すことができました。ただし切開した胸骨はしばらくの間バストバンドなどで締めておく必要があり、その間車の運転は控えなければなりません。田舎暮らしの人にとっては辛い毎日かもしれませんね。

 患者が手術中、集中治療室にいる時もしものことがあった場合のためお医者さんや看護師さんに緊急連絡先を伝えるようお願いされました。また手術後の回復具合、状況が変化した時などはすぐ担当医から連絡が入ってくるようになっており、遠くの病院に通わなければならない場合でも安心することができますね。ただし、手術で患者本人の抵抗力が低下した状態であり、また新型コロナウイルス感染症予防などの理由のため、身内が通った病院では3人以上での面会は受け付けられず、病院に入る場合は問診票に記入した上でマスクの着用体温計測が必須となります。子どもの面会はできませんでした

 ちなみに、病院によっては術後の生存率などのデータを求めているため何かあったときは連絡するようお願いされる場合があります。医学の発展のため協力するのも良いかもしれませんね。

規則正しい生活で心臓をいたわりましょう

 日本では、2022年心疾患で命を落とした方が年間23万人もいます。わたし自身他人事だと思っていましたが、今回身内が心疾患を経験したことでとても身近に感じられるようになりました。

 心臓病予防には生活習慣の改善がとても重要になります。規則正しい食生活で動脈硬化を予防し、ほどよい運動水分補給で血液循環を良くして健康的に毎日を過ごしていきたいですね。喫煙や飲酒はもちろんよろしくありません

 わたしは身近な人が危険に陥ってやっと理解できましたが、アナタにはより身近に感じてもらい、事前に対策していただきたく注意喚起のつもりでシェアしてみました。アナタ自身、そしてアナタの大切な人が急に命を落としてしまう前に、毎日規則正しい生活をして健康的に生きていきたいですね。

心臓血管研究所 附属病院
 心臓病予防に関しては こちら
 虚血性心疾患に関しては こちら
健康長寿ネット
 心臓病予防のための食事に関しては こちら

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