犬の目、実はすごく”優秀”なんです! 犬の5感をわかりやすく解説
世界には多種多様な犬種が存在します。もし犬の目が悪いのなら、視覚で獲物を追いかける『サイト・ハウンド』なんていないはずです。犬の目は悪くありません。それどころか人間の予想をはるかに上回る能力を隠しています。
今回は犬の5感に関する話をしていきますが、ひとつだけ大事な前提があります。
それは『犬種による』ということ。ひとことで犬と書いても『チワワ』のような超小型犬から『セント・バーナード』レベルの超大型犬まで様々です。また『ブルドッグ』と『ボルゾイ』で頭の形はまったく違い、たった1種類の犬を例にして「これが犬の力だ!」と決めつけることはできません。
人間でも白人や黒人、黄色人種によりイロイロな差があることと同じです。ここでは様々な情報源から見た『犬』の能力に関する話を書いていきます。
世界的に有名な動物行動学者”アーダーム・ミクローシ“氏の著作
それぞれの能力を人間と比較して紹介
犬の5感について、本に書いてあることや研究論文などを参考にしつつ紹介していきましょう。
嗅覚
犬といえばなんといっても鼻の鋭さでしょう。臭いは空気中を漂う『臭気物質』を鼻の粘膜がキャッチすることで感じますが、犬は人間の100万倍鼻が敏感だとされ、特に酸臭は人間の1億倍の鋭さをもつと言われています。ほか、臭いを感じる粘膜の広さなどを比較してみましょう。
嗅覚の鋭さ比較(約)
嗅上皮(臭いを感じる領域)の広さ
人間:広げるとホクロ一個分
犬:広げると自らの身体を覆える
嗅細胞
人間: 500万個
犬:2500万 ~ 3億個
嗅覚皮質(臭いを処理する脳の領域)の広さ(人間を”1″とする)
人間: 1
犬:40倍
脳の処理領域
人間: 5%
犬:35%
嗅ぎ分けられる臭いの種類
人間: 4000 ~ 10000種
犬:30000 ~ 100000種
嗅覚を頼りに獲物を狩る嗅覚ハウンドはこの能力に優れているでしょう。ベルギー原産の大型犬『ブラッドハウンド(Bloodhound)』は3億個もの嗅覚受容体をもつとさえ言われています。さらに、犬は左右の鼻孔を別々に使うことができ、さらに高精度の判別を可能としているのです。
フェロモン
フェロモンは『同種類の動物に“特定の行動“を促す特定の臭気分子』で、多くの動物が分泌する性フェロモン、アリなどが道標として使う道標フェロモンなどがあります。臭いとは異なり鋤鼻器(ヤコブソン器官)という専用の器官で感じられ、猫が口を開け呆けたようになるフレーメン反応などが有名ですね。
性フェロモンは妊娠可能のメス犬を判別する良い情報になります。また母親の乳房の間からは乳フェロモンが分泌され、目が閉じてる子犬に乳の場所を教え母乳を与えることができます。このフェロモンには鎮静作用があるとも言われ、子犬が安心して母乳を飲むことができますね。実は人間もフェロモンを分泌し、感知しています。アナタも「なんとなくアノ人のニオイがすき!」と感じたことはないでしょうか?
犬は臭いを”生の情報”として処理する
2022年7月11日。コーネル大学の研究チームは、犬の嗅覚神経回路が脳の様々な場所に及んでいることを突き止めました。
人間の場合、感情や記憶などを司る『大脳辺縁系』へいちど伝達された後、脳全体へ情報が渡されます。しかし犬は『脊髄・後頭葉』などとつながっており、人間が視覚情報を処理する配列を思い起こさせるものでした。
犬は臭いを視ている可能性があります。
感情というフィルターを通すこと無く、文字通り生の情報を後頭葉に送るということはなんの偏見もなく情報を受け止められるということ。これ実はとてもすごいことで、人間の場合『うんこ』の臭いを想像するだけでイヤになってしまいますよね? これ、感情フィルターで『うんこ = 穢れ』のイメージがあるからです。
犬からすれば、便はとてもたくさんの情報が得られる情報の宝庫と言えるでしょう。
内部リンク
うんこと人間の関係については こちら
聴覚
嗅覚もそうですが、犬は耳も非常に鋭いことで知られていますね。いぬみみは様々な形があり、垂れ下がった耳は音を遮断しているように見えますが、実際は人間よりたくさんの音を聞き分けています。聴覚に関する能力を比較してみましょう。
聴覚の鋭さ比較(約)
可聴範囲
人間:16 ~ 20000ヘルツ
犬:65 ~ 60000ヘルツ
可聴距離(人間を”1″とする)
人間:1
犬:4倍
耳介筋(耳を動かす筋肉)の数
人間:3個
犬:18個以上
犬笛は23000 ~ 54000ヘルツの音を出すので犬には聞こえますが人間には聞こえません。ある音が100メートル先で鳴った時、人が10メートルまで近づかなければ聞こえなかったとしても、犬は40メートル程度まで近づけば聞き取ることができます。また、犬は様々な鳴き方でコミュニケーションをとるので、細かい音の違いも聞き分けられると言われます。
いぬみみは優秀な”集音アンテナ”
犬は多くの筋肉で耳介を自由自在に操ることができます。集音アンテナのような耳の形もあいまって、人間より鋭く音の発生源を探知することができるのですね。さらに、犬は人間より遥かに高周波の音を聞くことができるので、たまに妙な方向をジーッと見つめていたりします。そのときは「何か聞きつけたのかな?」と考えそっと見守りましょう。
高周波の音が聞こえるせいで機械や家電製品が出す高周波に悩まされることもあるようです。もしわんちゃんを室内で飼育するのなら、この辺も考慮しておく必要がありそうですね。
声を聞かせる重要性
犬は飼い主の声と顔を関連付けて記憶します。2007年、京都大学で以下のような研究が行われました。
① モニターを用意し顔写真を見せる。パターンは以下の2つ
→ 飼い主
→ 見知らぬ人
② 犬に飼い主の声を聞かせる
③ 犬の反応を観察する
どちらの顔写真でも犬はモニターを見つめたのですが、驚くことに見知らぬ人を見る時間のほうが長かったのです、これはどういうことでしょう?
犬としては「飼い主の声だ!」と喜んだはずなのに、そこに映っている顔はまったくの他人。犬としては「どういうこと? アナタは飼い主なの?」となりますよね。そこで、犬は顔写真の正体がダレなのかじっくり見て見極めようとするのです。つまり、犬は声を聞くと飼い主の顔を思い浮かべるのだということがわかりますね。
そんなの当たり前のことだと思うでしょう。しかしこれが重要な発見です。飼い主の声を聞いただけで犬は飼い主の顔を明確にイメージできました。っということは、犬だけでなく他の動物も同じように『イメージする能力』を持っている可能性があります。脳内でイメージできる。これが人間独自の能力じゃなかったということですね。
Springer Link
当該論文は こちら
犬の目や耳は優秀すぎるのでより多くの研究記録があります。それらをまとめた本も多くあり、とくにアメリカ・コロラド大学ボルダー校で生態学、進化生物学の名誉教授となった『マーク・ベコフ』氏の著作『愛犬家の動物行動学者が教えてくれた秘密の話』に詳しく記されています。多数の日本人動物学者による監修で日本語訳されたので情報の正確さもピカイチ。ぜひ愛犬のココロを知るための一冊として常備しておきたいですね。
まいにち遊んでたくさん触れあえば、わんちゃんは声を聞いただけでアナタの姿を思い浮かべられるようになります。犬との絆を深めるために毎日さんぽに行って、たくさん遊んであげてくださいね。
内部リンク
犬の聴力についてもっと知りたい方は こちら
視覚
人間は視力を武器に活動していますね。それに比べ、犬の視力は若干見劣る部分があるかもしれません。しかし、犬の視力は決して悪くないのです。犬種により千差万別ですし、視覚に特化した『サイト・ハウンド』グループもあります。犬の視力を人間と比較してみましょう。
視覚の鋭さ比較(約)
裸眼視力
人間:1.35 ※
犬:0.27
錐体細胞種
人間:3種(赤・緑・青)
犬:2種(黄・青)
視野
人間:180度
犬:220度
※ 総務省『学校保健統計調査』を元に独自の計算で算出
犬は人間でいう赤緑色覚異常の色覚で、赤は灰がかった色に見えるようです。純粋な視力も弱く、ピント調節が難しいため目の前のモノはすべてぼやけて見えていることでしょう。
実は優秀な犬の視力
人間と比較し弱い印象の視力ですが、犬の目にはちょっとしたヒミツがあります。
犬の眼球の裏側には『輝板』と呼ばれる特殊な層があり、入ってきた光を反射し2度光を浴びることで夜目が効きます。愛犬を写真で撮ったとき、目が赤く輝いていることはありませんか? それこそカメラのライトを輝板が反射したものです。また犬は動体視力に優れているので動いたモノを敏感に捉えることができます。
視力が0.27だとしても何も見えないなんてことはありません。わたしは右目の視力が0.1以下ですが問題なく裸眼で過ごしています。たとえ顔が見えなくても歩き方や体格、服装、身振り、態度などで身近な人はすぐ見分けられます。犬もそうやってアナタを見分けているのではないでしょうか?
もちろん、以下の動画みたいにわからない時もありますけどね。
YouTubeチャンネル、DailyPicksandFlicks:投稿動画より 激ヤセした飼い主との再会
アイ・コンタクト
他者と視線を合わせる。自然界では闘争のはじまりを意味しますよね。しかし犬は人間とよく目を合わせ、表情を読み取り、飼い主のしてほしい事をしようとします。こんなこと、他の動物に可能なのでしょうか?
実は、犬以外でも視線を合わせてくる動物がいます。2017年、イェール大学で行われた研究では、犬のアイ・コンタクト能力がどのように進化したかを調査しました。比較対象とされたのは、犬と同じくアイ・コンタクトをするディンゴとオオカミです。調査の結果、以下のようなことがわかりました。
① オオカミはあまりアイ・コンタクトしない
② ディンゴは見慣れた人間とアイ・コンタクトをする
→ 犬より短い時間にとどまった
③ 犬のアイ・コンタクト能力は
比較的早い段階で進化した可能性がある
ディンゴは犬と同じく人間に家畜化されそうになったものの、結局決別した歴史があります。それらを考えると、犬のアイ・コンタクト能力自体は早期に進化したものの、アイ・コンタクトを維持する時間は後で進化していった可能性があるのです。つまりこういうことですね。
① ちょっとだけ家畜化されてたディンゴに
アイ・コンタクト能力があった
② 犬はディンゴより長い時間人間と
アイ・コンタクトをした
③ アイ・コンタクト能力自体は早期に生まれ
長く見つめる行動は後になって進化してきた?
わんちゃんたちのなかには人間がだいすきで、たくさん視線を合わせたい子もいるでしょう。そんなときはたくさん触れ合って、やさしい眼差しを向けてあげてくださいね。
Science Direct
当該論文は こちら
味覚
率直に言って犬は味オンチです。そもそも“味わう“という概念を犬たちは持っているのでしょうか? ――犬は聴覚と嗅覚の研究が多くあるのに対し、味覚や触覚は研究の数が少ないのが現状です。
味覚の鋭さ比較(約)
唾液腺の数
人間:3個
犬:4個
歯の数
人間:32本(親知らず含む)
犬:42本
味蕾の数
人間:9000個
犬:1700個
犬は純粋な肉食動物ではありません。肉を食べれば野菜も食べるし、木の実や人間の料理だって食べられます。人間と似た味覚をもち、人間と同じ『甘味・苦味・酸味・塩味・旨味』を感じることができます(旨味に関しては諸説アリ)。どんな味を好むかは個体差がありますが、人間の食べ物を与えすぎるとドッグフードを食べなくなる可能性があるのであげすぎに注意しましょう。とくに甘味を好む犬はチョコレートやキシリトールなどを含んだ食べ物を食べてしまう可能性があるため、飼い主がきちんと管理する必要がありますね。
注意すべき食べ物
犬に与えるべきではないと言われる食材があります。一例を以下に列挙してみましょう。
・キシリトールが含まれる食品すべて
・カフェインが含まれる食品すべて
・ネギ類
・ぶどう、レーズン
・アルコール
・チョコレート
・乳製品
・人間の食べ物
死亡例があるほどキケンな食材がたくさんあります。理由を解説するまでもなく『犬に与えてはいけないキケンな食べ物』とおぼえておいてください。たまに「ちょっとだけなら大丈夫」というコメントを見かけます。確かに、本当の本当にちょっとだけなら大丈夫でしょう。ではちょっととはどのくらいの量でしょうか? ちょっとだけ、ちょっとだけと家族が少しずつ与えていた時の総量はどのくらいになってるでしょうか? ――愛犬の健康のため、必ず愛犬第一で考えましょう。
鶏の骨は噛み砕く際歯に挟まり取れなくなることがあります。人間の食べ物は犬にとって高塩分&高糖質になり健康状態を損なう可能性が高まります。内臓疾患を起こしかねないので、どうしてもあげたい! という場合は計画的に分量を計算しましょうね。
パブロフの犬
食べ物をさっさと食べきってしまうものの、犬は人間より多くの唾液を分泌しています。我が家のわんこも、わたしがエサを用意するためたった瞬間に飛び上がり、よだれをダラダラ垂れ流しつつ所定の位置で待機しています。その姿がまたかわいいのですが(以下略
犬の消化器官を研究した『イワン・パブロフ(Ivan Pavlov)』は、その功績を認められ1904年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
彼は消化管を研究していましたが、そのなかで犬が『いつもエサを用意してくれる人間が来たら唾液を出した』ことに気づきます。そこで、彼は様々な刺激(ベルの音、メトロノームの音など)を犬に聴かせ、その後でエサをあげる実験を繰り返した後、犬は音が鳴っただけで唾液を分泌するようになりました。
これらの研究を、彼は『消化管の働き(The Work of the Digestive Glands)』という著書にまとめています。1897年著作という古い時代のものですが、当時の研究を詳細に知りたい方にはおすすめの著書と言えるでしょう。すこしお高めなので、まずはKindle版を検討することをおすすめします。
犬は与えられるだけ食べちゃいます。愛犬の「ちょうだい!」に負けぬよう、心を鬼にして「ダメ」と言いましょう。
触覚
味覚同様、犬の触覚に関する研究はあまりメジャーではありませんね。全身が毛で覆われている犬にとって主要な部位は肉球といえるでしょう。触覚が無いというわけではなく、我が家の愛犬をなでている時は尻尾をブンブン振って応えてくれます。試しに背中の毛先をちょこっと触ってみたところ「なんだ?」という顔で見られました。
鈍感、ということはなさそうですね。
触覚の鋭さ比較(約)
毛穴から伸びる毛の本数
人間:1~3本
犬:7~15
汗腺の種類
人間:2種
犬:2種
犬は人間とおなじ水分の汗と皮脂の汗を出しますが、全身が毛に覆われているため水分の汗はごく少量しか流すことができません。犬がかもし出す独特な香りは皮脂汗によるものです。
犬と暮らす方はよく経験されると思いますが、犬は飼い主に背中をくっつけて眠ることがよくあります。触れあうことで安心感を得ているんでしょうか? アナタの愛犬はどうですか?
肉球の万能さ
犬といえばやっぱり肉球ですよね。4つの足で地面を支え、肉球は衝撃緩衝材としての役割を果たします。そのほか滑りやすい場所でブレーキを効かせたり、断熱材として働くなどまさに万能な肉球。水分の汗もよく分泌するので貴重な体温調整も賄います。
人が緊張すると手汗が出るのと同じように犬もストレスを感じると足の裏が湿っぽくなるんですよ?
レトリーバー、ニューファンドランドのように水かきをもつ犬種もあり、それらは泳ぎがとても上手です。アナタと一緒に暮らすわんちゃんにも水かきがついてるかもしれませんね。
犬と飼い主の”絆”
犬と触れ合うと、飼い主も犬も『オキシトシン』というホルモンが分泌されるという研究が多々あります。みなさんご存知幸せホルモンと呼ばれるものですね。これに関する研究はたくさんありすぎてどれを紹介すればいいのかわかりませんが、とりあえず『犬と飼い主の触れ合いはオキシトシンを分泌させる』というのは大多数の研究者が肯定的な態度をとっています。
多くの犬は頭から腹部、背中などをなでられるとよろこびます。犬がよろこぶ姿にアナタもよろこぶはずなので、ぜひともワサワサのもふもふを撫で回してあげてください。犬と人間の絆、オキシトシンについて個人的にチョイスした研究を以下に紹介しておきます。
犬の5感について網羅的に解説していきました。これらは多くの犬種から明らかになったものであり、必ずしもアナタの愛犬の能力を示すものではありません。レトリーバーならレトリーバーの、チワワならチワワの、ボルゾイならボルゾイの強みがあります。それぞれの個性をしっかり把握し、わんちゃんたちが楽しく暮らせるようサポートしてあげたいですね。
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