トリチウムってなに? なぜトリチウムだけ話題になるの? 処理水に関するわかりやすい解説
トイレで用を足した時、そこに溜まっている水をアナタは飲むことができますか?
炊事、洗濯、料理――わたしたちは毎日汚れた水を排水溝へ流していますね。それらはすべてひとつの水道管に繋がり、やがて『下水処理場』へ流されています。
そんな水ですから汚くないワケがありません。でも、わたしたちはその水を最終的に川へ流しています。なんでそんなコトができるのでしょう?
それは『生活排水が下水処理場で処理されているから』です。どんなに汚れた水でも適切な処理を施せばきれいになります。
では放射性物質が混ざった水ではどうでしょう? 処理することができるのでしょうか? それとも処理された後も汚染されたままなのでしょうか? なぜトリチウムだけが他の放射性物質より頻繁に登場するのでしょうか?
みんなの知らない 世界の原子力汚染水ってなに? 処理水ってなに?
YouTubeチャンネル、あの日を忘れない東日本大震災:投稿動画より
福島第一原子力発電所では、事故により溶けて固まった燃料デブリを水で冷やし続ける必要があります。燃料デブリを冷やした水には様々な放射性物質が含まれるようになり、これが一般的に『汚染水』と呼ばれています。含まれている放射線物質の例は以下の通りです。
・セシウム
・ストロンチウム
・ヨウ素
燃料デブリを水で冷やし続ける必要がある。けど水を使えば使うほど放射性物質を含む汚染水が増えていく。つまりどうにかして汚染水を処理する必要があります。そのために生まれたのが『多核種除去施設(ALPS)』です。
・Advanced Liquid Processing System
→ 高度な液体処理システム
多くの放射性物質を処理するための施設で、活性炭などの吸着剤を活用し放射性物質を吸着したり、薬液などで沈殿処理などを行います。
その後『国際放射性防護委員会(ICRP)』が定めている基準を参考に、日本が独自で判断した基準値以下になるよう放射性物質を浄化。タンクに貯蔵していきます。ICRPはイギリスで非営利団体として公認される民間学術組織です。ALPSで処理される放射性物質については環境省やALPS公式サイト等で紹介されています。
ほんとうに処理されてるの?
政府や東京電力はALPSにより処理された水を『ALPS処理水』と呼び『トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水』と定義しています。処理水ではなくALPS処理水が正しい表記ということなのでしょうか。
一方、トリチウムなど一部の放射性物質が残留していることから『汚染水』と呼ぶ方も一定数いるようです。実際どうなのかと思いましたが、わたし自身の調査力不足ですべての核種が基準値以下になったことを示すデータを見つけることができませんでした。
逆に、2018年8月時に一部の放射性物質で基準値超えをしていたとするデータを発見することができました。これらの情報をまとめると、ALPS処理水は『処理されているけど放射性物質が残留してる水』になりますね。
トリチウムってなに?
トリチウムは『三重水素』です。水素は『陽子1つ』で構成された元素ですね。実際には電子をまとっていたり、水素同士がくっついて水素分子などの形をもっています。
原子は『陽子・中性子・電子』でできています。原子の名前は陽子の数で決まるのですが、中性子は同じ水素でも1つくっついてたり、2つだったり、まったくなかったりします。これを『同位体』と呼ぶのは理科の授業で習いましたね。ただし、水素など一部の原子は中性子がついてる数によって別名があります。
・中性子をもたない
→ 水素 or 軽水素
・中性子を1つもつ
→ 重水素 or デューテリウム
・中性子を2つもつ
→ 三重水素 or トリチウム
なんでトリチウムが話題になるの?
トリチウムは弱いながら放射能を持つ放射性物質だからです。
放射能とは『放射線を出す能力』です。中性子を2つ持つトリチウムはとても不安定で、ランダムなタイミングで中性子が陽子に変化することで安定性を保つようになります。その過程は以下のとおりです。
・トリチウム → ヘリウム3
トリチウム
= 陽子1:電子1:中性子2
ヘリウム3
= 陽子2:電子0:中性子1
陽子が2になることで、水素からヘリウムに変わります。これはベータ崩壊と呼ばれていますね。電子がものすごい勢いで飛ばされることでわたしたちの身体に悪影響を及ぼすのです。
じゃあトリチウムも危険じゃないか? やっぱり処理水じゃなくて汚染水だ!!
――っと思いますがちょっとまってください。放射性物質と書きましたが、ここで放たれるベータ線(電子)は威力が弱く人間の皮膚を突破することはできないとされています。また、トリチウムは時計の夜光塗料や年代測定などの技術でも活用される身近な元素でもあるのです。
トリチウム塗料は有名ブランドでも活用された実績があり、今でも多くのショップや通販サイトで求めることができます。仕事で夜遅くなっても時間が確認できるので便利ですし、夜間ランニングのお供としても最適ですね。
[ラドウェザー]メンズ腕時計 スイス製トリチウム クロノグラフ 100m防水 パイロットウォッチなんでトリチウムは処理できないの?
トリチウムは水分子の一部となっているので処理ができません。トリチウムは中性子が2つあるとはいえ水素は水素です。自然界にも多くある物質なのでALPS処理装置でも希釈することは難しいのですね。
そこで考えられた作戦が『大量の海水で薄める』という力技。薄めた水を少しずつ海へ放出する。これが2023年8月24日から始まった海洋放出の手法です。トリチウムの絶対量自体は変わらないので賛否両論ありそうなやり方ですね。
なおトリチウム以外にも処理しきれない放射性物質もあります。以下がその例です。
・セシウム134 / セシウム137
・コバルト60
・ヨウ素129
同じセシウムなどでも、同位体によって処理できない場合があるということでしょうか。環境省の情報では『検出される可能性はありますが、いずれも規制基準値未満です』とあります。
情報が錯綜するトリチウムですが、正しい知識をもとに考えることが重要になりそうですね。国からの情報、国に対し批判的な機関からの情報、中立的な組織の情報などを幅広く仕入れていく必要があるのでしょう。
経済産業省
廃炉・汚染水・処理水対策ポータルサイトは こちら
ALPS処理水については こちら
東京電力
原発に関するQ&Aについては こちら
処理水ポータルサイトについては こちら
FoE Japan
ALPS、トリチウムに関する情報は こちら
中国だけじゃない!? 海洋放出に反対してる国は?
宇宙線により、地球の大気では自然に年間7京(7×10の16乗)ベクレル程度のトリチウムが生成されます。それらは雨などで地球に降り注ぎ、全体的に循環しています。
研究によれば海洋生物にはトリチウムが蓄積しないことを示すデータがあります。また、福島原発では年間22兆ベクレルを海洋放出する予定ですが、世界に目を向けると、イギリスのセラフィールド再処理施設では年間1540兆ベクレルを放出していた例もあります。
こういったデータから「福島原発のトリチウム海洋放出量は少ないんじゃないか?」という意見もありますが、世界では福島原発に使われた水を海洋放出することに反対する国があることも事実です。
輸入禁止を決定した国
こういった話題だと、すぐ思い浮かぶ国は中国でしょう。以前から海洋放出に反対の態度をとっており、日本のテレビニュースでは様々なメディアで『処理水を汚染水と称して反対アピールする姿』が報道されています。中国の特別行政区である香港も、海洋放出に伴い10都県の水産物輸入規制に踏み出していますね。
世間では中国ばかり報道されていますが、実はマカオ政府も海洋放出された2023年8月24日以降、10都県の品物に関して輸入禁止の措置をとっています。
農林水産省
海洋放出に伴い規制を強化した国については こちら
反対を表明した国
隣国の台湾は海洋放出に反対の意志を表明しています。またマレーシア政府は海洋放出を受け食品のモニタリング検査を実施すると表明しました。
表立って反対意志を見せなくても「海洋放出されたことを残念に思う」といった趣旨を表明した国は多く、とくに太平洋圏の国々はその傾向が強いようです。
様々な情報が錯綜していますが、まずは『科学的根拠がある ≠ 真実』ということを押さえておきましょう。また、場合によっては都合のよい情報しか出さないということも考えられるので、できることなら信頼できる複数の情報源をもつことをおすすめします。意識して『賛成派:反対派:中立派』それぞれの意見を取り入れたいですね。
このブログ『つれづれグサッ』では、なるべく中立的な意見を心がけていますが、それでもわたし自身のバイアスなどで偏ってしまうかもしれません。ぜひシェアしたリンク先を辿り、より信頼性のある情報をチェックしましょう。また原発や今回の問題についてわかりやすく解説された本を手元に置いておけば、いつでもバイアスを緩和して情報を受け止めることができるでしょう。
みんなで考えるトリチウム水問題-風評と誤解への解決策-
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