薬の”完成”まで20年!? 費用も莫大な薬の開発事情
薬は『身体にとって有益な働きをする物質』のことです。たとえば『水分』は人体に必須の物質ですが、一度に大量の水を摂取すると『水中毒』になり最悪命を失う危険性を孕んでいます。このように、一般的に安全だと思われていても、用法用量を誤れば牙をむくモノは大量に存在しています。
薬の開発は人類の健康維持のためとても重要な課題です。しかし、たとえある病気に有効的な薬の開発に成功したとしても、その薬が人体に害を及ぼさないと保証されているわけではありません。だからこそ『その物質が有効かつ安全か否かを試す』必要があります。今回は薬がどのような過程をもって承認されていくのかを解説していきましょう。
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薬が効く仕組みについては こちら
薬が”信頼性”を獲得するまでに必要な道のり
薬を『医薬品』として承認するのは『厚生労働省』の管轄です。新薬開発会社から資料を提出してもらい、それらに不備はないかを厳重に審査した上で薬の承認がされます。主に審査されるのは以下のような要素です。
・有効成分を発見した経緯、海外での使用状況など
・薬の製造法、規格、治験データ
・保存、加速実験などの安全性
・薬の効力、安全性を裏付ける試験データ
・身体に吸収され排出されるまでの薬物動態
・毒性の有無
・臨床試験の成績
以上の資料を基に新薬を審査する部門が確認を行い、内外部の専門家協議を行った上で新薬の承認がされます。もちろん承認されない新薬候補も星の数ほど存在し、1つの新薬が誕生するまで6000もの新薬候補が脱落していく厳しい関門なのです。
厚生労働省、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
新薬承認までの手順は こちら
新薬開発が厳しい理由
一見すると非常に効率の悪い作業のように思えます。しかし、薬として開発される以上、その薬が害になってはいけませんよね? 薬は病気に対抗してくれる頼もしい味方ですが、ひとたび容量用法を間違えてしまえば逆に牙をむく恐ろしい『毒』でもあります。過去には国と製薬会社が安全性の確立を怠ったために『薬害エイズ事件』が発生するなど様々な『薬害』が存在しそういったことを防ぐためにも、新薬の承認には長い時間と費用が必要なのです。
こういった薬に関する事件や出来事、毒をもつ植物、生物などの詳しい情報は『鈴木勉』氏監修『大人のための図鑑 毒と薬』に詳しく記されています。薬害エイズ事件に関しても当時の菅直人厚生労働大臣が写った新聞記事を紹介するなど詳しく記されており、毒と薬に関して深く楽しく学べる1冊ですね。
薬の開発
新たな薬の開発、販売に至るまでの道のりはかなり険しく、一般的に10~20年の年月と数百億円もの開発費が必要とされます。新薬完成までのおおまかな流れを以下にまとめました。
① 基礎研究
② 動物実験(非臨床試験)
③ 第1相試験(治験)
④ 第2相試験
⑤ 第3相試験
⑥ 資料提出、承認へ
基礎研究
まず薬の候補となる化合物を探し出す必要があります。ある病原菌などに様々な化合物を試し、試験管の中での実験を行います。要は「この物質がこの菌をやっつけてくれるんじゃないか?」などという段階ですね。
有効成分の発見までに長くて3年ほどかかるようです。ちなみに、基礎研究や後述する動物実験などである成分が対応する病気に対し効果的だというデータが得られたとしても、それはメカニズムが解明されただけに過ぎずエビデンスとは程遠い段階にあります。昨今は科学の発展が著しくエビデンスが要求されている世の中だからこそ、エビデンスとはなにか? ということを認識しておく必要がありますね。
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エビデンスとはなにか? に関する記事は こちら
動物実験(非臨床試験)
基礎研究により有効成分を発見できた後は、それを動物実験により効果と安全性を確かめる『非臨床試験』を行います。長くて5年ほどの歳月をかけ薬効を確かめていきます。
注意が必要なのは、上記で挙げた通り動物実験段階で有効性が確認されたとしても、まだエビデンスの確立がされていないということです。人間で試しているわけではないので『動物実験で成果があった = 人間にも有効とは限らない』のですね。
『動物実験で有効性が確認されました!』などという広告があるかもしれませんが、これはエビデンスを示しているわけではないことを肝に銘じておきましょう。
こういった内容は『松村むつみ』氏著作『「エビデンス」の落とし穴』に詳しく書かれています。よく騒がれている『糖質制限はやせる? やせない?』など数々の疑問を解決し、そもそも『エビデンスとはなにか?』という疑問にダイレクトな『答え』を示してくれる1冊です。
第1相試験(治験)
いよいよ人間を用いた実験段階にはいります。これは『治験』と言われる段階で、10~30名ほどの健康な成人(おもに男性)を対象に募集し、新薬の安全性を試す臨床試験段階になります。
ここでは『安全性』の確認を主に行います。健康な人に薬を投与し健康状態をチェック、健康状態に変化が無いことを確認します。
第2相試験
安全性が確認されると、今度は実際の患者さんを対象として試験が行われます。その薬がターゲットとする病気を患った方ですね。
100以下名ほどの方に協力してもらい、この段階では『用法用量の設定』を目的とします。患者さんにとってどの程度の処方量が的確かを探る段階ですね。もちろん副反応、深刻な副作用が認められたらこの時点で開発そのものが中止になります。
第3相試験
この段階ではより多くの患者さんを対象とします。おおよそ数千人規模で新薬の試験が行われ、その薬に『本当に効果があるのか?』を確かめます。もちろん副反応や深刻な副作用が認められれば即開発中止です。
第1相試験からこの段階をクリアするまで7年ほどの歳月がかけられますが、この段階をクリアしたとしてもまだ『厚生労働省による承認』が待ち構えています。
資料提出、承認へ
この治験データをもとに『厚生労働省』による審査が行われ、上記で紹介した段階を3年ほどの歳月で行い国からの承認が得られます。
この段階に至ってようやく『新薬の完成』段階にこぎつけるのです。
厚生労働省
医療品、医療機器に関する情報は こちら
コロナ治療薬の開発について
アメリカでは『食品医薬局(FDA)』が薬物の承認を行いますが、未承認薬の使用を特別に許可する制度が存在し、実際に実施されています。日本にも承認までの長いプロセスを省くための『条件付き承認制度』や『特例承認制度』が存在しますが、上記の『薬の安全性』との間で板挟みになっており簡単に承認できるものではありません。
しかし、日本でも広がる新型コロナウイルス感染症を鑑みて2種類のワクチンをはじめ続々と新薬が特例承認されているようです。2021年12月24日現在承認されている薬は6種類で、さらに7種類のコロナ治療薬が開発中です。治療薬によって対象者や効果は様々ですが、今後コロナウイルス感染症の薬は増えていくでしょう。
厚生労働省
令和4年9月30日現在、日本で承認済みの新型コロナウイルス治療薬一覧は こちら
本日の”ToDo”
①ストレス解消しよう
ストレスは免疫力を妨げる可能性があります
②コロナ対策をしよう
いつまた感染拡大が起きるとも限りません
③コロナウイルスに関する知識を得よう
厚生労働省や病院のサイトなどに情報が記載されています
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