【心理学】子ども相手にサイコパスな実験をした”泥棒洞窟実験”とは?

心理学者夫婦が行った実験をわかりやすく解説

 泥棒洞窟実験は『他の集団同士はいがみあう』ことを明らかにした驚くべき実験です。子どもに対して行った結果このような結論に至ったのですから、どのような実験が行われたのか気になるところですよね。

 しかし、それと同時にこの実験は『険悪な集団同士でも同じ目標を掲げることで仲良くなれる』という発見もあった素晴らしい実験です。

 たとえば学校の部活動。対戦相手にチームメイトと同じタイプの選手がいたときに対抗意識を燃やしたり「こっちのほうが強い」とか「あのチームのヤツは弱い」と根拠もなく思ったことはありませんか? 仲間を信じるのは素晴らしいことですが、もしかしたら今回紹介する心理が働いたのかもしれません。

 今回は子ども相手にサイコパスな実験をした泥棒洞窟実験という驚くべき実験についてわかりやすく解説したいと思います。

グループ同士の対立心理を説明した”泥棒洞窟実験”とは?

 泥棒洞窟実験はアメリカ人の社会心理学者『ムザファーシェリフ(Muzafer Sherif)』、『キャロラインシェリフ(Carolyn Sherif)』夫妻によって1954年に行われた実験です。

 彼らは社会の集団行動に関する研究者で、とくに集団間の敵意がどう生み出されるのか?といったテーマを取り扱っていました。彼らが行った実験は次のとおりです。

・11歳、12歳の子どもを22人
  2グループに分ける
・各グループの”“を深めさせ
  異なるグループがあることを伝える
・グループ合同でキャンプを行う

 場所はオクラホマ州のロバーズケーブ州立公園のキャンプ場です。泥棒洞窟実験という名前は実験が行われた場所を指していたのですね。

 両グループは、まず別のグループがあることを伝えられず、自身のグループ内で仲良くなる期間を設けられました。

 ある程度内集団の絆が深まりつつあるタイミングで、自分たちとは別のグループがあることに気づきます。さらに、シェリフたち実験者が先導して綱引き野球などで競わせ、優秀な成績を納めたグループにトロフィーなどを与えました。言うなればわざと対立を煽ったのです。

 これにより、グループ間の仲は険悪になり、互いに悪口を言い合ったり、場合によっては暴力を使った方法もとられました。しかし、こうすることで”グループ内の結束力が高まっていた”ことをシェリフ夫妻は発見しました。

 社会心理を明らかにするためとはいえ、子どもたちにこんな実験をするなんて驚きですよね。ただ、さすがに険悪な仲にさせるだけの実験というわけには行かず、ここには『険悪なグループ同士を仲良くさせるにはどうすれば良いのか?』という試みも行われました。

暴力沙汰レベルの仲を回復させた方法とは?

 シェリフ夫妻は、子どもたちの仲をよく使用といろいろな工夫をしました。たとえばこのようなものがあります。

・一緒に食事をする
映画を観る

 一見するとすばらしい案ですが、子どもたちは食べ物を巡る争いをしたり、映画上映中の暗くなったタイミングを見計らい嫌がらせを行うなどあまり効果は見られず、むしろ逆効果になってしまったかもしれませんね。

 いっしょに食事をするのは心理学的にも良いことだとされています(ランチョン・テクニック)。しかしそれすら効果が薄いとしたらどうすればグループどうしの仲を良くすることができるのでしょうか? ――その答えは『同じ大きな目標をもつこと』です。

 シェリフ夫妻は次に以下のような“しかけ”を用意しました。

飲料水の給水タンクが故障した
トラックのエンジンがかからない

 キャンプ場には飲料水が飲める場所がいくつかありましたが、それらが故障して使えなくなるという問題を意図的に起こしました。子どもたちが水を欲しがる時間帯にイベントを起こすというオマケつきです。

 エンストしたトラックですから成人男性なら数人で動かせそうですが、10歳くらいの子どもであれば全員で協力しなければどうにもならなさそうですよね。

 互いに協力しあわなければならない状況をつくるのがシェリフ夫妻の狙いです。子どもたちは彼らの狙い通り全員が協力しあい、共に給水タンクの詰まりを解消し、トラックを目的地まで動かすことができました。

 それまでの間いがみ合っていた両グループが、大きな共通の目標に向け助け合っていたのです。

仲が悪い人同士はいっしょに大きな目標をクリアしよう

 仲が悪い関係の人同士を結びつけるには協力させることが重要です。しかも、ちょっと重い荷物をいっしょに運ぶとかいうレベルでなくより大きな目標が求められます。

 とはいえ、そこまで険悪な仲でなければいっしょに何かをするだけでも絆形成に役立ちます。部活動で連携を深めたいとか、仕事仲間と意思疎通をがんばりたいという方は、ちょっと同じ時間を過ごしてみたり、いっしょに何かにチャレンジするなどしてみると良いと思います。

 ひとつ注意が必要なのですが、協力して大きな目標をクリアするという経験は回数を重ねることが重要なのです。この実験でも、給水タンクの問題をクリアした後もまだ小競り合いが続いていました――険悪になっていた仲を修復するには、それ相応の大きな目標と、協力してきた経験が必要なのですね。

 アメリカの映画で、よく仲が悪い人と協力した後は態度が軟化する的な展開があったりしますね。シェリフ夫妻が行った実験は書籍化されており、いつでも手に入れることができます

国立情報学研究所、図書検索サービス(CiNii)
 ムザファー・シェリフ氏の著書を閲覧できる図書館は こちら
ヨーク大学、Classics in the History of Psychology
 泥棒洞窟実験に関しては こちら(英語)

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