こころを救う学問 様々な技法や関連資格も紹介
臨床心理学(Clinical psychology)は『心理学研究で得られた知識をこころの問題を抱える人たちの問題解決のために使う応用心理学』です。これまでの研究で多くの療法が確立され、公認心理師や臨床心理士はそれらの知識によってクライエントの援助、支援を行います。
こころは目に見えない領域です。身体にできたケガのように修復するのが難しく、こころの病気は1日2日で治るような“ケガ”ではありません。発見が遅れるほど治療が難しいというデータもあります。
平成29年時点、すでにこころの病気で通院、入院をしている人の数は約420万人にのぼり、これは日本人の30人に1人の割合です。生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかるとも言われ、日本ではこころの問題がとても重要なのです。
こころの問題は特別な人がかかるものではなく誰もなりえる可能性があります。だからこそ公認心理師という国家資格があるのです。今回は他者のこころを支える臨床心理学を紹介しましょう。
臨床心理学の歴史は?
臨床心理学の起源として有名なのはアメリカの心理学者『ライトナー・ウィットマー(Lightner Witmer)』です。彼は1907年に心理学系の雑誌『The Psychological Clinic』を設立し、創刊号に『臨床心理学(Clinical Psychology)』の言葉を用いました。その直前の1896年には世界初の心理クリニックも創設しており一連の出来事を臨床心理学の起源とする説が有力です。
これはあくまで有名な説というだけで、世界を見ると様々な臨床心理学の歴史が見えてきます。
世界の臨床心理学
臨床心理学は『人が抱える“こころの問題“の解決を助ける』分野です。そう考えると『ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)』が行ってきた精神分析なども臨床心理学なのではないか? と言うこともできますね。ヨーロッパではフロイトが臨床心理学の創始者として考える場合も多く、フランスでは臨床心理学を精神分析や病理心理学と併せて学ぶ分野という捉え方をされているようです。
ドイツではドイツ出身の医学・心理学者『ミエール・クレペリン(Emil Kraepelin)』氏が起源とする方も多くいます。彼が1896年に発表した『精神医学における心理学的実験(Der psychologische Versuch in der Psychiatrie)』こそが臨床心理学の起源だとする説ですね。彼の研究はアメリカ心理学会の『精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)』に強く影響を与えました。
心理学の知識を患者の治療に応用しようという試みは古くからありましたが、フロイトをはじめ多くの心理学者は『臨床心理学』という言葉を使いませんでした。そういった意味で、臨床心理学自体はこころの問題を抱えた患者(クライエント)を救おうとする過程で自然発生的に誕生したとも言えそうですね。
現在行われている代表的な治療法は?
YouTubeチャンネル、国際心理支援協会:投稿動画より
心理学の歴史は100年ほどですが、それまでに多くの研究が積み上げられ臨床心理学に応用されています。現在の臨床心理学では科学的根拠に基づいた心理的なサポートができているかをきちんと押さえた上でクライエントに対処していきます。
臨床心理学の基本的なスタンス
・エビデンスベイスト・アプローチ
科学的根拠に基づいた手法を用いる
・カウンタビリティ
専門家として、クライエント本人やそれに関わる人たちへの説明をする
・インフォームド・コンセント
クライエントに心理的援助への同意を得、負担を与えるようなら中断する
カウンセリングは他者の心を分析し問題解決を図ります。それは他者のプライバシーに足を踏み入れることなので常に倫理的配慮と隣合わせの世界なのです。また人のこころは職場や学校など環境が深く関わってくるので、学校の先生など他分野の専門家とコラボレーションしながらアプローチしていくこともあります。
原因を探るアセスメント
風邪、ケガ、熱中症――これらには必ず原因があります。それと同じように、こころの問題もなんらかの原因があります。カウンセラーはまずその原因を突き止める心理検査『アセスメント』からはじめます。
アセスメントは『クライエントの人格、行動傾向、生活状況などを多角的に評価し、理解するための行為』です。具体的なアセスメントは以下のようなものがあります。
アセスメントの種類
・面接と観察
話している時の態度、身体の動きなどを観察する
かんたんな質問をして答えてもらう
対話を通して信頼関係の構築(ラポール)を図る
・質問紙法
性格や心理傾向、様々なスクリーニングなどを行う
クライエントが”うそ“をつく場合もあるため
行動観察と質問紙での整合性や、うそを考慮した判断が必要
・投影法
絵や文字を見せ感想を言ってもらったり実際に絵を描いてもらう
自由度が高く、あいまいな刺激に対する反応を観察できる
深い心理まで観察できるが、診断者に高い熟練度を要する
・作業検査法
かんたんな作業をしてもらい観察する
人格や適正を把握するのに最適
その日の調子、作業意欲などに結果が左右される
・その他の検査
知能検査、発達検査、認知症検査など
アセスメントでは複数の方法を組み合わせて行うのが普通です。また同じテストでも繰り返すことで結果が異なる場合もあるので、日にちを開けて再テストする場合もあります。
こころの問題は非常にデリケートであるため複雑な要素が絡み合うこともあります。カウンセラーはそれらを考慮した上で次の介入に当たらなければなりません。カウンセラーをただ人の話を聞いてるだけの人と思う方もいそうですが、実は見えないトコロでこんなに頑張ってるのですね。
原因を解消するための介入
検査により原因を特定したお医者さんは、次に薬を処方したり手術を行ったりなどの治療を行いますよね? カウンセリングの世界ではこれを『介入』と呼びます。具体的な介入方法は多岐にわたり、それぞれクライエントが抱えるこころの問題の原因や状態によって柔軟に変えていきます。
病院での治療と異なり、介入は『問題解決のサポート』が目的です。クライエントに介入方針を伝え同意を得た後、クライエントが立ち上がるための様々な援助を行います。
代表的な介入方法
・認知行動療法
クライエントがもつ認知の歪み、極端な考え方など物事の捉え方を修正していく手法
自分のストレス源に気づき、問題を整理して考え方や感情、行動を自らの意志で修正する
うつ病、依存症など多くの精神疾患に有効とされる
・自律訓練法
自己催眠を利用したリラクゼーション法
7つの公式動作の上消去動作を加える
→ 背景・重感・温感・心臓調整・呼吸調整・腹部温感・額部涼感
短時間で行えるメリットが大きい
持病、心身の状態により行えない場合がある
・家族療法
クライエントのこころの問題を家族というシステムを通じて改善させようとする試み
家族全員と良好な関係を作りそれぞれの問題を整理、解決を図る
家族の関係は変えずに受け止め方へアプローチしていく
・遊戯療法
おもちゃや遊具あそびなどを通して心理療法を試みる
遊び側(クライエント)の主体性に任せ、ありのままを表現してもらう
言語能力を介さないので子どもに対しよく行われる
遊戯療法のひとつ『箱庭療法』は『遠藤達哉』氏原作マンガ『SPY×FAMILY』でも登場しましたね。実際の箱庭療法であのカオスな結果が出た時カウンセラーがどう判断するのかわかりませんが……まあ、ただ事ではないのは確かですね。
このマンガは主人公が精神科医を生業とするスパイだけあって精神医学ネタが非常に豊富で、心理カウンセリングについても多く題材として登場しています。
箱庭療法について描かれているのは第5巻です
他専門家とのコラボレーション
カウンセリングの基本は上記のとおりですが、たとえば学校現場ではたらくカウンセラーの場合どうでしょう? こころの調子を崩した子どもの話を聞いてみたところイジメが発覚したという場合、カウンセラーは学校の先生など他分野の専門家と協力しあってクライエントを援助していく必要があります。
他専門家との連携
・リファー
医師など他専門家へ紹介する
他専門家との協力ではなく引き継ぐかたちをとる
・コーディネーション
クライエントを他専門家へ紹介した上で
協力しながら介入にあたる
実際のサポートは他専門家と独立して行う
1995年、文部科学省(当時:文部省)が『スクールカウンセラー活用調査研究委託事業』を開始してから、公立小中学校に多くのスクールカウンセラーが配置されるようになりました。
学校は児童生徒、教師、保護者それぞれの思惑が入り乱れる小さな社会です。その環境や相談に訪れる子ども、先生の境遇をしっかり見極めて対処しなければなりません。場合によっては心理教育を行い、プライバシーを尊重しつつカウンセラーは中立的な立場を守っていかなければなりません。
人のこころを支える仕事は、影で多くの努力をしているのですね。
臨床心理学関係の資格について
YouTubeチャンネル、ライフコーチ薫 【心理カウンセラー】:投稿動画より
日本で心理・メンタル関連の資格といえば長らく『臨床心理士』が知られていました。昭和63年に設立され、現在も多くの臨床心理士が心理専門職として活躍しています。
平成29(2017)年、新たに『公認心理師法』が施行され、平成30(2018)年より新たな国家資格『公認心理師』が誕生しました。ほか、日本には様々な資格があります。
・公認心理師
公認心理師法で定められた国家資格
支援のみならず、心理に関する相談に応じたり教育や情報提供を行ったりする
・臨床心理士
日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格
クライエントの悩みを聞き、様々な心理療法を試みる
医療、教育、福祉、司法、産業など活躍の幅が広い
・精神保健福祉士
精神保健福祉士法で定められた国家資格
精神障害者の相談に応じ、給付制度や免税情報の提供、
退院後の住居や再就労の助言など社会復帰の手助けをする
・産業カウンセラー
日本産業カウンセラー協会が認定する民間資格
職場におけるメンタルヘルス、キャリア、人間関係開発の援助を行う
同協会では国家資格のキャリアコンサルタント養成講座を受講できる
産業カウンセラーは過去国家資格だった
・スポーツメンタルトレーニング指導士
日本スポーツ心理学会が認定する民間資格
メンタルトレーニングを通し、主にスポーツ選手への心理的サポートを提供する
国家資格の多くは指定大学大学院の卒業や5年以上の職務経験の上で試験に合格するなど、資格所得に対し高いハードルが設定されています。しかし厳しい条件なだけに資格の信頼性はバツグンなので、これらの資格をもっている方であればクライエントも安心して相談できますね。
「心理カウンセラー関連の仕事に就きたい!」と考えている方、指定大学以外に入学すると資格取得までのハードルがかなり高くなってしまいます。そうなる前にぜひ『新川田 譲』氏監修『心理カウンセラーをめざす人の本 2023年版』でアナタにとっての最短ルートを見定めておきましょう。カウンセラーに求められる資質、基本的な専門用語、公認心理師や臨床心理士の受験資格を得られる大学一覧を網羅しています。
現代社会はストレス社会とも言われますね。相談したら良いと言われても自分のプライバシーを安々と他人に話すのは難しい。だからこそ、そういった方々を援助するスペシャリストが必要なんだと思います。最近なにかと外出が難しいですが、ストレスはいちばんの大敵なのでほどよく過ごしていきたいですね。
アナタの心身の健康を祈ります。
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