催眠術師は”雰囲気作りの天才” 催眠のテクニックと実践をわかりやすく解説
世間一般のイメージにある『催眠で相手を思うがままに操る』とか『好きなタイミングで催眠をかける』といったものはプロの催眠術師でもムリです。マインドコントロールなどに関する誤った認識は創作の産物で、とくに『ジョージ・デュ・モーリア』が悪意ある催眠術師がひとりの女性を意のままに操る作品『トリルビー』を出版したことが大きいのかもしれません。しかし実際の催眠は思っている以上に深く、そして科学的な“技術”なのです。
催眠とは『暗示に反応しやすい意識状態』です。特徴としては以下のようなものがあります。
・催眠は”催眠を体験する人“の才能
・本人がイヤがることは決して実現できない
催眠術師は誘導を行うことにより催眠を受ける人の精神状態を導き、暗示によって実際の行動を起こさせます。しかし催眠自体は『催眠を体験する人の才能』であり、決して催眠術師がスゴイわけではないのです。これは一体どういうことでしょうか? 今回は催眠にかかるしくみ、実践法について書いていこうと思います。
催眠術師のイメージを定着させた不朽の名作“Trilby“
世にも奇妙な催眠術 危険なイメージがつきまとう理由
『催眠』というワードに対して、アナタはどういったイメージをもっているでしょうか? 怪しい? 怖い? 危ない? ――いずれにしても決して良いイメージではないでしょう。
人の脳はハッキリしないものには不快感を示します。テレビなどで放送されている催眠術はそういった『謎』や『怪しさ』の部分を前に出し、怪しげな雰囲気の中“操られたように”ゲストの芸能人たちが眠ったり、手が動かなくなったりという演出で見せるため、催眠術はそういったイメージがつきまとってしまうのでしょう。しかし催眠術は決して怪しくも怖くもなく、やり方さえ学べば誰でもできるテクニックでもあるのです。
催眠は”かかる人”の才能
催眠術師が対象者を催眠状態へ導くため、以下のような行為をする必要があります。
① 催眠誘導
② 暗示
「今から催眠をかけます」――そう言われて警戒しない人はいませんよね? そんな精神状態の人を催眠するのはどんな熟練者でもムリです。人を催眠状態に導くにはまず心をリラックスしてもらい、催眠術者の言葉を素直に受けれいてもらう“準備“が必要なのです。
催眠誘導の目的は『被験者にリラックスしてもらい、催眠自体に集中できるよう手助けをする』ことです。
リラックスしてください。手のひらの1点を決めて、そこを見つめてください――今から数字を数えると、あなたは深くリラックスして催眠にはいっていきます
こういった誘導を行った後、催眠術師は本題である暗示にステップします。
暗示は『催眠の本体』と言っても良いでしょう。実際に被験者に対し催眠をかけ精神や身体に変化を起こさせる言葉を投げかけるものです。ただし冒頭で書いたように『本人がイヤがることは決して実現できない』ため、ここまででいかに被験者に心を開いてもらうか、そして本当に催眠にかかっちゃうかも! という期待を起こさせるかがカギとなります。
アナタの手はだんだん重たくなっていきます――手が少しずつ下がっていきます
暗示を行う際「手を開くな」といった命令や依頼形の言葉は決して使いません。なぜなら催眠術は『被験者が望んでかかるもの』ですから、命令されて催眠にかかるようなものではないからです。あくまでも被験者の気持ちを代弁するかのような言葉が出てきますので、もしテレビで催眠術師がパフォーマンスを見せていたらそのあたりをチェックしてみましょう。
催眠術師が利用するテクニック
人はそう簡単に催眠にかかりません。ということで、催眠術師は複数の手段から被験者を催眠へ誘導するのですが、ここでは主なテクニックをいくつか紹介しましょう。
催眠誘導テクニック① “はい”と心の中で答えさせる
リンゴを手にして「これはリンゴですね?」と問いかける。それだけでアナタは心の中で(うん、そうだね)と肯定の意思を示すでしょう。日常の何気ない会話でも、わたしたちは無意識のうちに『肯定』の意思を示しています。
今日はいい天気だねー
なかなかコロナ収まらないよねー
野球って楽しいよねー
心のなかでこういった『肯定』を重ねさせ、ある意味で『肯定のクセ』をつけさせるのです。椅子に腰掛けさせた場合などはとくにやりやすいですね。
楽に腰掛けてください。アナタの足は床についています――アナタの背中は背もたれについています――アナタの身体は椅子に深く沈み込んでいきます
アナタが心の中で「はい」と口にしているのを催眠術師はしっかり観察しているのです。
催眠誘導テクニック② 想像させる
レモンは酸っぱいですよね。梅干しはさらに酸っぱくて、口のなかに頬張れば唾液がどんどん溢れてきます――前項の『肯定』を利用しつつ、このテクニックでは『相手に想像させる』ことで身体の反応を生み出しています。
イメージしただけで、もしかしたら今アナタの口の中では唾液が分泌されているかもしれません。
実は、催眠術は精神のみならず『身体の反応も利用する』のです。人の身体は勝手に動く仕組みがあり、催眠術師はそれを利用することで、あたかも催眠にかかったような気持ちにさせることができます。そこから本格的な催眠に入ることで、アナタの心はさらに催眠術師に開かれることになります。
催眠誘導テクニック③ 雰囲気をつくる
これは決して催眠にかからないと雰囲気が悪くなる、のような空気を読め的な雰囲気ではありません。催眠について知っている人は『催眠は“催眠を体験する人“の才能』であることを知っていますが、世間一般では催眠術師がスゴイ程度のイメージしかありません。なので催眠術師がそれっぽいことをするだけで「ホントに催眠にかかっちゃうの!?」といった思いを懐きます。
それを逆に利用するのです。テレビでの演出などは最もわかりやすい例で、怪しげな雰囲気でいかにも「今から催眠パフォーマンスがはじまりますよ!」といった感じですよね? こうすると催眠術師が超能力者のように見えてしまい、被験者はその雰囲気に飲まれ催眠にかかりやすくなるのです。この現象、催眠術においては『威光暗示』、心理学では『権威性』などとも呼ばれるかなり強力な心理的作用です。
催眠にかかってみよう!
知識的な話はここまでとして、アナタが気になるのは『具体的な催眠の方法』でしょう。ということで、今回は1つ催眠術の例を紹介しようと思います。これは個人でも可能な催眠ですので、ぜひ『静かで邪魔が入らない部屋』で試してみてください。
YouTubeチャンネル、十文字幻斎の『幻ちゃんねる』~赤いトサカの催眠術師~:投稿動画より
こちらの動画では最もポピュラーな催眠のひとつを実践していますね。それまでは笑顔でハキハキとした喋り方をしていた催眠術師が、催眠開始直後に冒頭から静かな雰囲気をつくり『厳かな雰囲気で語り始める』ことに注目してください。③で紹介した雰囲気作りです。
さらに、手を握ることを指示したあと「手を握ったのは催眠を体験したいからですよね?」と『肯定』を促す問いかけをします。さらに「どうすれば催眠成功なのでしょう?」とイメージをもたせています。とてもわかりやすく、実践しやすいですね。
何度も繰り返しますが、催眠はアナタ自身が「催眠にかかりたい! 体験したい!」と思わなければか催眠状態に入ることはありません。催眠を体験したい場合はオープンな心をもって、ドキドキワクワクな気持ちで臨んでください。
催眠のかかりやすさ
催眠術師はショーなどでパフォーマンスを行う際『観客のなかで誰が催眠にかかりやすいか?』を観察しています。これには『催眠感受性テスト』をすることがよくあり、たとえば以下のような手法になります。
YouTubeチャンネル、マインドセット・マネジメント:投稿動画より
催眠のかかりやすさは当然個人差があるので、パフォーマンスで披露する際まずは催眠にかかりやすい人を探す必要があるわけですね。催眠を利用してメンタルを整える『自律訓練法』という手法もあり、催眠はれっきとした“科学的な技術”であることを知っておいてください。
内部リンク
自己催眠を利用した”自律訓練法”については こちら
催眠についてもっと「知りたい!」「興味ある!」と思いましたか? もし催眠に興味をもち実践したいのでしたら『漆原正貴』氏著作『はじめての催眠術』がおすすめです。催眠の歴史やメカニズム、初心者が行える簡単な実践から上級者向けのテクニックまで幅広く網羅されています。アナタも催眠術師としてデビューみてはいかがでしょうか?
コメント