【心理学】じぶんが損をしても相手の足をひっぱりたいヤツいますか?【最後通牒ゲーム】

経済学実験の定番”最後通牒ゲーム”のわかりやすい解説

 人間は社会を形成する動物です。

 集団生活をするとき、人は集団のルールを守って生活しますよね。それは集団のなかで助け合うためでもあり、集団のなかで利益が生まれたとき、それを平等、公平に分けるためでもあります。

 ですから、そのなかで自分だけが得しようとする存在はイヤがられます。場合によってはみんなから疎まれてうなんてことも――イジメはよくありませんが、みんなで協力していくのは重要だと思います。

 集団で生活するから、人は他人とコミュニケーションをとり、他人がどう考えてるかを察したり、時には自らの利益とは別に助けたりします。一見すばらしいスキルに思えますが、この能力は時として集団を乱す行為をした人を容赦なく糾弾することにも繋がりますよね。

 実は、人間のこういった恐ろしい面をさらけ出してしまうゲームがあります。今回はそんな『最後通牒ゲーム』をわかりやすく解説していきます。

不公平はゼッタイ許さない! 最後通牒ゲームとは?

 最後通牒ゲームは『1対1で行うたった10秒でできるゲーム』です。

 ルールもいたってシンプルで、ただ一方が提案をして、もう一方が承諾するかどうかを決めるだけです。詳しいルールを解説しましょう。

① 一定量の金額を円用意する
  ※ 10,000円、100万円など金額はある程度あればいくらでも良い
② 片方は『提案側
  もう片方は『承諾側』となる
③ 提案者が自身・相手
  で分配する金額を提案する
④ 受諾者はそれに対し
  受諾拒否を選べる

 金額は100円でも1億円でも構いません。この金額を提案者は『自分5000円・相手5000円』といった感じで山分けする金額を決め、受諾者は「YesNo」を決めることができます

 ただし、ここにひとつ条件が付きます

受諾
  → 提案された金額をどちらも受け取れる
拒否
  → 提案された金額をどちらも全額没収される

 Yesの場合どちらも5000円得ることができ、Noの場合はどちらも”0円”になってしまうワケですね……でも、かしこいアナタならこう考えるかもしれません。

<strong>アナタ</strong>
アナタ

Yesって答えればお金もらえるんだろ? じゃあYesに決まってんじゃん

 確かにもらえる金額が5,000円であればだれでもすぐ承諾すると思いますが――では次の場合はどうでしょう?

<strong>イジワルなひと</strong>
イジワルなひと

オレは9999円おまえは1円

 こう提案された時、アナタは「Yes」と答えられるでしょうか?

どこヘンから不公平?

 5,000円5,000円ならあっさり「Yes」と答えられるでしょうが、その金額が6,000円4,000円 7,000円3,000円と下がっていった時、アナタはどのタイミングで「No」と答えるでしょう?

 いやいや、どの道お金もらえるんなら「Yes」にするでしょ? っと思いガチですが、実際問題、多くの実験で不公平な金額を提示された時「No」と答えるという結果が出ています。これは心理学、経済学でよく行われる実験のゲームだったのです。

 最後通牒ゲームは、古くからゲーム理論研究のひとつとして知られていました。とくに有名な1982年、経済学者の『ウェルナー・グース』ほか数名が行った実験ですね。ほか現在まで多くの研究者が同じ題材で実験をしてきました。

 その結果、多くの提案者は折半から6割(10,000円中の6,000円)程度の金額を自らの取り分として選択し、受諾者は自身が4割以下の取り分のときはNoと答える比率が上がることがわかっています。いったいどのような理由があるのでしょう?

不公平はゼッタイに許さない!

YouTubeチャンネル、ナショナル ジオグラフィック TV:投稿動画より

 人間は社会を形成する動物です。社会ではみな平等に協力していくことになりますが、これは逆を言えば不公平は許されないということです。数百万年前、食べ物の数が限られ協力しなければ生きていけない時代からこの習性が続き、今の時代でも人は不公平に対し大きな怒りを覚え、罰を与えるための行動に駆り立てます

 それは自らが損をしてでも、ジコチューなヤツを苦しめたくなるほど強い心理です。

 あまりにも差額が大きい提案をされた場合、人は不公平感による怒りを刺激され「No」を選択してしまうのです。では提案する側はどのような心理なのでしょう?

 提案者は「低い額を提示したとき相手はどう思うか?」を考えます。不公平を感じさせる立場にいるので当然の心理ですね。ただし、提案者は実際に金額を提案できる強い立場にいるため、その欲望がどうしても勝って五分五分よりほんのり有利な金額を提示してしまうのでしょう。

 脳の血流を観察できるfMRIを使った実験によると、この実験を行う被験者は相手の立場に立って物事を考えるときに使う領域と、不快を判断する領域が活性化することがわかっています。

 不公平感を感じる動物はほかにもたくさん存在します。サル、鳥、犬や猫、多くの哺乳類は公平さをしっかり判断してるので、ペットといっしょに暮らしてる方は要注意してください。

 片方のわんちゃんにだけかまってると、もう片方のわんちゃんが拗ねちゃいますよ?

 経済学では、これまで「人間は合理的にモノを考える」的な前提で学問されていましたが、人はけっこー反射的にものを考えたり誤った直感などで生きていますよね? 最後通牒ゲームはそんな人間の不安定さを示すおもしろいゲームで、進化心理学の観点から記した小林佳代子氏の『最後通牒ゲームの謎』は、そんな人間の恐ろしさをたくさん紹介してくれます。

 アナタは「自分が損をしてでもアイツを引きずり落としてやる!」と感じたことはありませんか? それはある意味あたりまえの人間心理ですし、決して恥ではありません。人間なんだからそう思っていいんです。

 怒りはおもいっきり表現して、おもいっきり発散して、そして新しい気持ちで自分と向き合いましょう。ちなみに、最後通牒ゲームは提示された金額の絶対値――たとえば相手が1,000万円、アナタが100万円くらいの取り分の場合、絶対的に得られる金額が大きいので「Yes」と答える可能性が上がるようです。自分にとってどんな選択がお得なのか、考えてみるのもいいですね。

参照:Werner Güth, Rolf Schmittberger, Bernd Schwarze:An experimental analysis of ultimatum bargaining
大阪大学、研究専用ポータルサイト ResQU
 行動経済学者、犬飼佳吾氏へのインタビューは こちら
経済産業研究所 RIETI
  瀧澤弘和氏のコラムは こちら

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