駆け抜けとは? 打者走者のみ許された”特権”に関するわかりやすい解説
野球の世界共通ルールである『公認野球規則(2020年版)』では、駆け抜けは以下のような定義になっています。
・定義57『OVERSLIDE or OVERSLIDING』
攻撃側プレーヤーが、滑り込みの余勢のために塁から離れて、アウトにされるおそれのある状態におかれる行為をいう。本塁から一塁に進む場合には、ただちに帰ることを条件として、滑り込みの余勢のために塁を離れることは許されている。
この定義だと「あれ? 駆け抜け(オーバーラン)について書かれていないじゃないか?」となりそうですが、ルールブックの他欄にきちんと『オーバーランしてもアウトにならない』といったような表記があるので問題ありません。これらのルールを要約すると以下のとおりになります。
打者走者が1塁ベースに到達する際は
・駆け抜けて良い
・オーバースライド(滑り抜け)して良い
※ ただちに帰塁することを条件とする
このプレーは1塁独自のルールであることがルールブックで明記されています。下記の動画では2塁を駆け抜けた例が紹介されていますが、当然のごとくランナーはタッチアウトを宣告されていますね。
勘違いしがちな”駆け抜け”のルール
YouTubeチャンネル、delpippi:投稿動画より
駆け抜け、もしくはオーバースライドしたランナーがその後アウトになる条件は以下の通りになります。
・ただちに帰塁しなかった
→ 審判の判断によりアウトが宣告
・2塁へ進塁する意志を見せた
→ 守備側のアピールプレイにより、審判はアウトの判断へ
注意すべき点として、これらは『審判の判断によりアウトが決定される』ということです。さらに、このルールは1塁独自のものであるため、上記動画のように他の塁で駆け抜けをすれば、守備側からのタッチを受けアウトになってしまいます。
北海道日本ハムファイターズの監督である『新庄剛志』氏が、メジャーリーグの現役時代にヒザをちょっと曲げただけで2塁へ進塁する意志を見せたとしてアウトを宣告されています。
ジャッジは審判の判断に委ねられます。些細な動きでも不審に思われてはいけないという教訓になるでしょう。
以下の動画では本来なんの問題もないプレーと解釈することもできますが、審判の判断によりアウトが宣告されました。これはわたしの個人的な感想ですが、おそらく菊池選手が慌てて帰塁する様子を“生きようとする意志”と解釈したため、審判はそのままアウトを宣告したものと思われます。
YouTubeチャンネル、osaka 79:投稿動画より
駆け抜けはどこでもいい
これは経験者でも勘違いされがちなことなのですが、駆け抜けは『フェアゾーンに駆け抜けても問題ない』のです。以下の動画の『1分20秒』あたりを参照してみてください。
YouTubeチャンネル、ADVANCED Baseball:投稿動画より
ルールブックにもフェアゾーンに駆け抜けたらアウトなどという記述はありません。が、おそらく野球経験者は「ファウルゾーンに駆け抜けろ!」と教わっているでしょう。理由としては守備選手との接触を避けるなどいくつかありますが、ファウルゾーンに駆け抜けなければならないルール上の理由は原則ありません。
子どもたちに教える際はきちんとルールを理解し、それを教えながら動きを確認させましょう。
気をつけるべき”スリーフットレーン”
YouTubeチャンネル、0088 r:投稿動画より
ホームから1塁の間に、なにやら不思議なラインが走っているのを経験者は気づいているでしょうか? これを『スリーフットレーン(スリーフットライン)』と呼びます。
スリーフットレーンは『打者走者の絶対安全ゾーン』です。1塁付近は多くの接触(選手、ボール問わず)が発生する危険ゾーンなのでルールとして『走者はここを走っていれば“妨害“にならない』という救済策が講じられており、スリーフットレーンを走行すれば原則妨害をとられることはありません。また、打球の処理をする守備選手を避けるためにスリーフットレーンから離れても良いという緊急避難的なルールも存在します。
上記動画では、そのゾーンを走らなかったために妨害をとられアウト、日本シリーズを落としてしまったゲームが紹介されています。選手にとってもファンにとってもなかなか苦い思い出ですが、ルールの検証動画としてはこれ以上ない教材と言えるでしょう。
しかし、これにはベースがフェアゾーンに存在するなどなかなか難しい問題があります。フェアゾーンにあるベースを踏まなければならない都合上、ランナーは必ずフェアゾーンを走行する必要がでてきます。まさか足だけをフェアゾーンに出すなんてことできませんよね? ――そこで、最近議題にあがっている内容を次に紹介しましょう。
無用なケガを防ぐ”ダブルベース制”
2021年冬、日本野球界ではソフトボールでルール化されている『ダブルベース制』が、日本プロ野球の立法機関である『プロ野球実行委員会』によって検討されていました。残念ながら12球団すべての同意を得られず見送りとなってしまいましたが、これが実現すれば選手間の不要な接触が減って良いかもしれませんね。
ソフトボールは距離が短く接触の機会が多いため、安全を考慮してダブルベース制度が設けられています。ダブルベースに関するおおまかなルールは以下の通りです。
・1塁でのプレーがある(駆け抜けなど)時
→ 打者走者はオレンジベース(ファウルゾーン)を利用する
→ 守備側は白いベース(フェアゾーン)を利用する
・上記条件のもとでも、1塁側ファウルゾーンからの送球のみ
守備側はオレンジベースに触れて良い
野球、ソフトボールではスリーフットレーン以外を走れば妨害の可能性が生まれるのですが、スリーフットレーンはファウルゾーンに存在し、各ベースはフェアゾーンにあるため、どうしてもフェアゾーンを走りがちです。その結果接触が起こることも少なくないのが現状で、無用なケガを防ぐためにも、ぜひダブルベースの検討をすすめてほしいところですね。
日本ソフトボール協会
ダブルベースの解説は こちら
ルール改正はさらに続く
こういったルール改正は年々行われており、たとえば2022年度の『メジャーリーグ・ベースボール(MLB)』でも日本野球の2軍にあたる『3A』ではベースサイズがひとまわり大きくなる改革が行われました。
・15インチ(約38.1センチ)四方
→ 18インチ(約45.7センチ)四方
野球のルールは年々改正されており、実はピッチャーの平均球速レベル上昇から、ピッチャープレートをセカンドベース側に下げようという議論さえ巻き起こっているほどです。10年先、はたして野球はわたしたちの知っている“野球”と同じなのでしょうか? そういった点も含めてこれからの野球が楽しみですね!
ちなみに、わたしの野球人生のなかでも実際にあった経験なのですが、練習中滑り込みをしてベースをふっとばしてしまったことがあります。ベースが遠くへ飛んでいってしまったのですが、そういう時は『ベースがあった位置に触れておけば良い』ので、草野球に挑戦したい初心者の方はその点ご注意ください。
コメント