YouTubeチャンネル、PBS Terra:投稿動画より
ほんとうに賢い犬種は? 犬の性格判断”ビッグシックス”も紹介
1万年以上も昔から、人類は犬と暮らし、良い関係を築いてきました。狩りのお供、家畜の護衛、荷車を運ぶ力仕事、あるいは飼い主の心を癒やすコンパニオン・ドッグ。現代の犬は盲導犬に警察犬など、もはや人類にとって必要不可欠な地位を確立しています。
犬の知能を題材にした時、有名なのは『ボーダー・コリー』ですね。よくいちばん賢い犬種と紹介されていますが、これ実は人間側が解釈の勘違いをしています。根拠としてよくあげられる資料は『人間の命令に“素早く正確に“反応するか?』という指標で評価したもので、決して賢さ・知能的な観点で評価したわけではありません。
今回は、ボーダー・コリーが最も賢いという根拠になったと思われる著書と、犬をより賢くさせるため知っておくべきことを紹介します。
内部リンク
犬と人類の歴史に関しては こちら
本当にボーダー・コリーがいちばん賢い?
ある程度犬に関する情報を集めている方であれば、犬の知性に関して『ボーダー・コリー』がいちばん賢いという情報に触れたことがあると思います。また『アフガン・ハウンド』がいちばんバカだ、なんて情報に触れたことがあるかもしれません。どちらもある研究にもとづいて書かれていると思われますが、これは受け取る側の大きな勘違いによって生まれた偏見でしかありません。
上記の根拠として、1994年に出版された『スタンレー・コレン(Stanley_Coren)』氏による著書『The Intelligence of Dogs(犬の知性)』に記されていた研究結果がたびたび紹介されるようです。内容をしっかり理解すれば、決して「ボーダー・コリーがいちばん賢い!」というわけではない事を理解できます。以下、コレン氏の『犬の知性』に関する研究を紹介しましょう。
The Intelligence of Dogsは日本語訳版も出版されています
当時、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で教授をしていたコレン氏は、犬の知性を以下の3要素で定義しました。
① 本能的な知性
命令されなくても実行する行動
ポインティング、物を咥えて持ってくる行動など
② 適応的な知性
自ら問題を解決するための能力
エサをもらうため芸をする、柵の向こうのエサを手に入れるなど
③ 働くことと服従の知性
人間から学ぶ犬の能力
人の行動を観察し、人が望んだ行動をとることなど
コレン氏の研究は『③ 働くことと服従の知性』を主眼においたものです。つまり、『いかに人間の言う事を理解し、聞き入れ、命令通りに行動できるか?』の指標ですね。
実験方法はアメリカ及びカナダの『ケネルクラブ』の服従裁判官に協力を要請し、犬種ごとにランク付けをしました。服従裁判官とは、犬が人の命令にしっかり従っているか判断する役割を担う人です。ドッグショーなどで、犬のパフォーマンスを採点するときに活躍します。
人間のコマンド(命令)を理解し、それに従うまでの時間を目安に、全79の犬種をランク付けしました。トップ10を以下にまとめます。
① ボーダー・コリー
② プードル
③ ジャーマン・シェパード
④ ゴールデン・レトリーバー
⑤ ドーベルマン
⑥ シェットランド・シープドッグ
⑦ ラブラドール・レトリーバー
⑧ パピヨン
⑨ ロットワイラー
⑩ オーストラリアン・キャトル・ドッグ
『アフガン・ハウンド』は、全犬種中最低の79位にランク付けされています。新しいコマンドを理解するのに多くの試行回数が必要で、それに従うのも本犬の気分次第だったということです。
“命令に従う”から賢い?
上記のランキングで導かれた知性は人間の都合でしかありません。扱いが難しいとされるアフガン・ハウンドは服従しないから知能が低い呼ばわりされているわけですね。ちなみに、日本で人気の『チワワ』は67位。日本犬として海外の人気も厚い『秋田犬』は54位、同じくおバカキャラ扱いされている『シベリアン・ハスキー』は45位です。
命令に従わないからバカ犬だって、それはあんまりじゃない?
同じ知性でも『認知能力』がスゴいのか、それとも『思考能力』がスゴいのか……犬の知性を本当に知りたいなら限られた要素だけでなく総合的に判断するべきですね。冒頭で紹介した動画にあるようにほんとうに賢い犬の判断は難しいので、賢い犬種はコレだ! と言えるものがなく『犬個別によって異なる』というのが正解だと言えるでしょう。
知性は育てることが可能
そもそも、犬は『目の前にエサがあるのに、すぐ回り込める壁が1枚あるだけで食べられなくなる』ような猪突猛進タイプの動物です。アナタが犬を飼っていらっしゃるなら(心苦しいかもしれませんが)格子の奥にエサを置き試してみるのも良いでしょう。目の前のエサに前足を伸ばす犬を見ることができます。もちろん、どの犬もそうだというわけではありませんが……。
犬の知性は犬それぞれです。イギリスの心理学者『ロザリンド・アーデン(Rosalind Arden)』、『マーク・ジェームス・アダムス(Mark James Adams)』両氏が行った研究を紹介します。いちばん賢いと言われる『ボーダー・コリー』を68匹集め、『壁を迂回しエサを手に入れる』などの実験を行ったところ、最速のボーダー・コリーは3秒程度でゲットできたのに対し、最も遅かったボーダー・コリーは2分ほどかかったようです。
賢さは訓練で養うことができます。生まれた時から『おて・おすわり・ふせ』ができる賢い犬なんていませんよね? 飼い主が何度もチャレンジして、犬は「こうして欲しいのかな?」と行動した結果ご褒美をもらえる。結果、はじめて犬はお手やお座りなどを覚えます。
犬のしつけがうまくいかない、もっとうまい方法はないのか? そんな悩みは専門家からのレクチャーが最適です。ただしつけ教室などは手間や費用がかかってしまうためトレーナーの知識が詰め込まれた本を参考にすると最もコストパフォーマンスが良くなりますね。
『北村紋義』氏は大阪府在住で、様々な問題を抱え保護犬となってしまったペットたちのリハビリを行う活動をしています。人間への不信感から噛みグセや問題行動が増えてしまった犬たちを温かい手で包みこんでくれる氏のトレーニングは他のトレーナーにはない愛情を感じられますね。
『ポチパパ』の名前で登録者25万人の超人気YouTuberとしても活躍していらっしゃいます。
犬の知性を伸ばすため、犬の性格を知ろう
性格とは『元々の気質と成長によって育まれた、その人の思考・行動傾向』です。持って生まれた気質(遺伝)的な要素に、生まれた環境や周囲との関係を経験することで、その人の性格が培われていきます。人間の性格診断に関しては『ビッグファイブ理論』が有名ですね。かなりの精度で性格を診断できるとされています。
残念ながら『犬用のビッグファイブ』は存在しませんが、犬の性格を6つの要素から判断する議論は多く研究されています。ビッグファイブならぬ『ビッグシックス』といったところでしょうか。主に、以下のような点が考慮されます。
臆病さ
・未知のものへ接近できるか
・初めての状況で落ち着いていられるか
攻撃性
・他の人、犬に対し、何らかの”対立”を
吠える、咬むなどの行動で解決しようとするか
・縄張りに侵入者が来た時どう行動するか
・社会的に対立した相手にどう行動するか
訓練への反応性
・人間と遊ぶことがどれだけ好きか
・人間と働く時どの程度協力するか
・新たな状況で素早く学習できるか
社交性
・他の人、犬に対し、知る知らないの関係なく
友好的なやり取りを開始できるか
自己主張性
・人が通っても動こうとしないか
・集団で動く時、先頭に立とうとするか
活発性
・知る知らない関係なく
広い場所で自発的に運動するか
これらの性格診断は、主に『犬の観察』や『飼い主への質問票』などで把握します。信頼度が玉石混交する研究ですが、データが増えるにつれ、より信頼性の高い研究が増えていくことでしょう。以下、性格診断のひとつの例として、テキサス大学心理学部の『アマンダ・ジョーンズ(Amanda Jones)』氏が開発した『犬の性格調査票(DPQ)』へのリンクを紹介します。
テキサス大学心理学部、GOSLING LAB
犬の性格調査票については こちら
よく『飼い主と飼い犬の性格は似ている』と言われます。となりにアナタと暮らす“家族“がいるなら、ちょっと顔を覗いてみてください。アナタと性格が似通っていませんか? ――わんちゃんも、アナタと同じ気持ちを感じているかもしれませんよ?
2022年現在、犬の性格や賢さに関してハッキリした研究結果はありません。ただし、犬種ごとの傾向、その犬個別の性格から、より良い付き合い方を考えることはできます。この機会に、ぜひわんちゃんといま一度、心を通わせてみてはいかがでしょうか?
アナタの家族とより良い日常を送れることを、心から祈っています。
コメント