犬と人の絆 出会いの旅路をそれぞれの視点から解説
犬は『食肉目(ネコ目) – イヌ科 – イヌ属に分類される哺乳類の一種』です。現在の『イヌ』は、現在ユーラシア大陸から北アメリカ大陸に幅広く分布する『オオカミ』から分岐したとされています。
オオカミは『タイリクオオカミ』や『ハイイロオオカミ』など複数の名前が存在しますが、この記事では『オオカミ』で統一します。
今回は『犬』の歴史を紐解きつつ犬と人間の出会いに関して、数ある説のひとつをご紹介します。
犬の起源
ヘスペロキオンの想像図:画像=英語版ウィキペディアより
イヌ科の先祖は『ヘスペロキオン』と呼ばれる動物です。ギリシャ語で訳すと『西洋の犬』となります。おおよそ3700万 ~ 2600万年前に存在したとされる動物で、カナダ南部から北米にかけて存在した原初のイヌと言える存在です。
体長はおよそ80cmとかなり小柄で、手足はそこまで強くなく短かったとされています。また雑食だったのではないかとも言われています。
トマークタスの想像図:画像=英語版ウィキペディアより
基本的にイヌ科は北米~カナダ南部を中心に展開していき、1500万年前にイヌ科直接の祖先ともされる『トマークタス(訳:熊もどき)』が誕生。イヌ属に発展したのは700万 ~ 600万年前あたりとされていますがどれが当該動物なのかは判明していません。
オオカミは80万年ほど前にはすでにヨーロッパ大陸に存在していたとされます。氷河期当時は『ベーリング陸橋』と呼ばれる陸地が北米大陸とユーラシア大陸をつないでいたため、カナダ南部で誕生したイヌ科はヨーロッパまで進出することができたとされています。
“イヌ”の誕生した時代は?
人間と共に生活する犬がどのタイミングで誕生したかについては一定の議論が存在します。以下にまとめてみましょう。
ヨーロッパ起源説
ベルギーの『ゴイエ遺跡』にて、4万年前とされるイヌ科の化石が発見されました。ほかフランスの『ショーヴェ洞窟』で発見されたものは3万4000年前とされ、家畜化された犬なのではないか? という論文も発表されています。当該すると思われるリンクを以下に貼っておきます。
ほかドイツの『オーベーカッセル遺跡』やロシアの『ブリヤンスク地方』、イギリスの『ヨークシャー』に存在する旧石器遺跡にもイヌ科の化石が発見されています。
ScienceDirect
ヨーロッパ起源説については こちら(注:英語)
中近東起源説
イスラエル、テルアビブ大学の動物学者『ダマール・ダヤン』氏の研究によると、中近東で発掘された最も古いイヌ科動物の化石は4万5000年前の『タブンB(ネアンデルタール人の遺跡)』で、その次に3万年前の『ケバラE(ホモ・サピエンスの遺跡)』とされます。
さらに、イスラエルには『アイン・マラッハ』という紀元前1万2000年に存在したナトゥーフ文化の遺跡があり、そこでは老尾と生後4 ~ 5ヶ月の子犬が共に埋葬されている墓が発見されています。犬の胸のあたりには埋葬された人の左手が添えられていました。この逸話はヨーロッパで有名で、それを元にした著作まであるようです。
東アジア起源説
スウェーデン王立工科大学の『ピーター・サボライネン』をはじめ、複数の研究で世界各地に存在する犬のミトコンドリアDNAを採取し『いつ・どこで』飼い犬が誕生したのかを決定する試みがありました。
結果、多くの情報を統合すると『犬の起源は1万5000年前・場所は中国の揚子江南方地域』を起源とする説が濃厚のようです。
ヒトの起源と”イヌ”との出会い
現在世界中に分布している人類の起源は約20万年前の南アフリカ大陸に遡ります。ヨーロッパ人とアジア人の共通祖先は約7万年前に誕生したと推定され、そこから中近東を経由しヨーロッパやアジア、さらに南アメリカまで到達し、現代では世界中に広まっています。
ここでヒトとイヌ、それぞれの生活領域の進出を『島泰三』氏著作『ヒト、犬に会う 言葉と論理の始原へ』に記された事柄をもとにまとめていきます。
ヒトの進出
長らくアフリカにとどまっていたものの、7万年ほど前に脱アフリカを果たします。世界へ広がっていくなかでもとくにアジア方面へと進出するルートでは、まず中近東を経由しイランへ、そのままインドを経て東南アジアへと進出していきます。
当時の地球は急激な温暖化からの氷河期とかなり上下差が激しい環境であり、2万年前のロシアはほとんどツンドラや極砂漠(寒く雨が降らない気候)だった一方、東南アジア周辺は現在の日本のように非常に恵まれた環境にありました。
多雨林、樹林、草原地帯と、当時石器を扱い狩りをする人類にとって東南アジアは好ましい“狩場”だったと言えますね。さらに色とりどりの果物、海岸には海の幸と定住には好条件が揃っており、当時の人間はここで村を築くことにしたかもしれません。
イヌの進出
ロシア方面は厳しい環境下にあり、当然ながらそこで過ごす生き物たちはより良い環境を求めて移動を繰り返します。もちろんオオカミもその一員で、草を求める草食動物を追いかけてシベリアから南下してきたのです。
草食動物を追い求めヒマラヤ山脈を超え、チベット高原を周り、中国南部の多雨林を超えた先には草食動物が好むような広大な草原が広がっていました。そこには多くの人間が腰を据えた村が存在し、オオカミはその周辺に巣をつくり子育てをしていたことでしょう。
イヌの誕生
イヌが人間に飼いならされていく過程を研究した説が2つあります。
・白い牙仮説
オオカミの赤ん坊を人間が飼うようになった
・村イヌ仮説
人間の残飯漁りをしていたオオカミが村の周辺に居着いた
どちらも自然で説得力がありそうですね。イヌがまだオオカミだった時代からも、人類はゆるやかにオオカミという異種族と交流してきたような記録が残されています。オオカミの成獣をヒトに慣れさせることはほぼ不可能に近いですが、同じオオカミでも性格というものがあります。人類はオオカミのなかでもフレンドリーな個体を狙って慣らしていったのかもしれませんね。
これらの鋭い考察は『島泰三』氏著作『ヒト、犬に会う 言葉と論理の始原へ』に詳しく記されています。数多くの動物のなかでなぜ犬だけがこれほど人間と交流を深めたのか? 犬はなぜヒトの言葉を理解できるのか? といった内容を動物学者らしい含蓄ある知識をもって書き記しています。マタギ犬を飼育する猟師との交流など、卓上ではない現場での活動を通して得た経験の数々は非常に説得力ある内容で、おもわず「なるほど!」と感じてしまうような驚きの数々でした。
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